2011 Fiscal Year Annual Research Report
里山構成種の生理的可塑性と共存機構における林冠ギャップの機能評価
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22580170
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Research Institution | Forestry and Forest Products Research Institute |
Principal Investigator |
山下 直子 独立行政法人森林総合研究所, 関西支所, 主任研究員 (70353901)
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Keywords | 里山 / 光合成 / 環境変動 / 解剖学 / 生理生態 |
Research Abstract |
異なる光環境に対する生理生態的適応力の違いが、里山構成種の生育場所を制限する要因になっているかどうかを検証するために、低木種であるコショウノキを対象として、スギ人工林と隣接する落葉広葉樹林に生育する個体について、葉フェノロジー、開花結実率、葉の光合成特性、クロロフィル蛍光反応などの生理生態特性と生育場所の光環境との関係を調べた。コショウノキは、6月以降夏から秋にかけて一部落葉し、春4月から5月に新しい葉をだすという葉フェノロジーをもつ。1つのシュートにおける着葉数は、スギ人工林のほうが落葉広葉樹林内の個体のほうが多く、葉齢も人工林内の個体のほうが高かった。一方葉の回転率は、落葉広葉樹林のほうが高かった。結実率は、open個体、人工授粉個体とも人工林、落葉広葉樹林内で差は認められず、繁殖特性は光環境による影響を受けないことが考えられた。葉の最大光合成速度は、人工林と落葉広葉樹林の個体で差がなかったが、クロロフィル蛍光値(Fv/Fm)は人工林の個体のほうが高く、暗呼吸速度は人工林よりも落葉広葉樹林で高かった。このことから、落葉広葉樹林内の個体は光阻害によるストレスをうけ、暗呼吸速度が高いことによる光合成のロスが大きいことが示唆された。シュートの節間長は、人工林のほうが落葉広葉樹林の個体よりも長かった。光環境は、落葉広葉樹内では冬季は人工林内よりも明るいが、夏季は上層から下層まで樹木が繁茂することにより人工林内よりも暗かった。以上の結果から、落葉広葉樹林の個体は、葉が成熟する夏季には人工林よりも暗いため十分な光合成ができず、また冬季には低温と強光による光阻害でストレスをうけており、人工林の個体よりも成長が制限されていることが考えられる。葉の生理特性が冬季に光阻害を受けないですむ常緑樹林内の光環境に適応しているために、落葉広葉樹林へは分布を拡大することができないものと考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までに、苗畑で生育させた苗木の葉の生理特性および解剖特性の解析がほぼ終了しており、今年度は各樹種の光環境の変化に対する可塑性を馴化指数を用いて算出し、林冠ギャップ形成に対する反応性を評価する予定である。したがって、研究の遂行に特に問題はない。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、各樹種の生理生態的可塑性について、環境要因として光条件の変化を設定したが、今後は光以外の環境要因である水分条件、養分条件の変化に対する可塑性について同様の研究をおこなうことにより、各樹種の環境変動に対する生理生態的応答を評価したいと考えている。今回は、既に試験地が設定され利用可能なデータの蓄積がある暖温帯の里山林に限定して解析をおこなったが、将来的には、温帯、冷温帯を含む常緑広葉樹林帯から落葉広葉樹林帯まで幅広い気候帯を対象に同様の研究をおこない、汎用性の高い成果を得ることを目指したいと考えている。
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Research Products
(1 results)