Research Abstract |
われわれは昨年度まで,高齢者に対する身体的虐待によって好中球が各臓器内に浸潤することを明らかにしてきた。平成23年度は小児に対する身体的虐待によっても同様の好中球浸潤が各臓器にみられるか否か,浸潤によって臓器障害が起こるか否かについて検討した。すなわち,小児の身体的虐待死剖検例13例について,myeloperoxidase (MPO)を指標として,心,肺,肝,腎といった各臓器内の好中球数を数え,小児の対照14例(鋭器による損傷死3例,単独の鈍器による損傷死6例,多発外傷死5例)と比較したところ,いずれの臓器においても虐待死例の好中球数が有意に増加していた。さらに,好中球の代表的な遊走因子であるinterleukin (IL)-8並びに好中球が産生する組織障害因子の一つである好中球エラスターゼ(neutrophil elastase ; NE)を指標として比較したところ,いずれも虐待死例の各臓器内に陽性細胞数が有意に増加していた。これらの結果について,癌や重度熱傷など種々の原因に基づく多臓器不全による死亡6例と比較したところ,心臓以外の臓器では虐待死例の好中球数は多臓器不全例よりも有意に低値を示した。したがって,身体的虐待によって小児の心臓,肺,肝臓,腎臓といった重要臓器において,多臓器不全ほど高度ではないものの好中球浸潤が認められ,小児に対する身体的虐待の法医学的証明法として有用であることが示唆された。また,虐待死例では好中球が産生する組織障害因子であるNEの発現も増加しており,好中球による各臓器の組織障害がすでに起こっている可能性が示唆された。高齢者の場合と同様に,虐待を受けた小児は多臓器不全の前段階ともいうべき状態にあり,虐待が続くなどの傷害や感染などの様々な障害がさらに加われば比較的容易に多臓器不全に陥る危険性があるものと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成22,23年度の研究によって,タンパク質レベルでも小児・高齢者に対する身体的虐待によって重要臓器内に好中球の浸潤が起こっており,臓器障害の可能性が示唆される結果が得られ,虐待の法医病理学的診断法として実務に応用できることが示唆された。よって,研究は当初の目的通り,おおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,平成23年度の研究成果を原著論文にまとめて発表するとともに,身体的虐待に基づく好中球浸潤さらには臓器障害の証明をさらにmRNAレベルで検討し,より精確な虐待診断法を開発していきたい。さらに,身体的虐待が臓器障害を引き起こし,虐待が続けば重篤な多臓器不全が引き起こされる可能性があることを広く社会に向けて発信していきたい。
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