Research Abstract |
舌痛を伴う疾患は数多く,鑑別診断は容易ではない。なかでも,舌痛症は診断方法,分類の煩雑さなどの理由から舌痛症に留まらず,舌痛全般に対する理解や診断までも困難にしている。とれを解消するには,舌痛の器質的・精神的要因の有無をスクリーニングする系統的診断システムを構築し,舌痛関連疾患を正確に診断することが重要である。診断方法として,病歴聴取,口腔内・外診査,パノラマエックス線検査,血液検査,培養検査ならびに唾液分泌検査を行った。さらに,局所麻酔薬と非ステロイド性抗炎症薬を用いて除痛の有無も確認した。その結果,舌痛の原因疾患は口腔カンジダ症,口腔乾燥症,舌炎,舌痛症の順に多かった。器質的変化や自覚症状がない,あるいは乏しい口腔カンジダ症や口腔乾燥症を原因とする舌痛を診断するためたは,培養検査や唾液分泌検査などの臨床検査が不可欠であると考えられ,これら臨床検査が実施されなかった場合,舌痛症と診断される可能性があることが示唆された。舌痛の性質について,舌痛症は圧痛を有さないことが舌痛症特異的な所見と考えられ,舌粘膜障害は舌痛症の病態に関与しない可能性が示唆された。除痛効果について,舌痛症では局所麻酔薬,非ステロイド系抗炎症薬のいずれにおいても除痛効果は乏しく,中枢神経障害性または心因性疼痛を考慮する必要があると考えられた。舌痛症では味覚異常を訴えるものは存在せず,低亜鉛血症の発現頻度も低い傾向にあり,舌痛症に見られる味覚障害ならびに低亜鉛血症は舌炎症例の混入の可能性が示唆された。手掌部発汗は舌痛症に高頻度に認められ,舌痛症と自律神経系異常の関連が示唆された。さらに,手掌部発汗は舌痛症特異的な所見である可能性も示唆された。以上より,本診断方法に則った診断結果を分析・考察し,より科学的に厳格な系統的診断システムを構築する足掛かりとしたい。
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