Research Abstract |
量子集合論を量子力学の様相解釈への応用に関する研究を行ない以下の成果を得た。 1.量子集合論における強制概念:量子集合論に強制概念を導入して,量子状態が実数の命題を強制する事と,その状態の下で,対応する観測命題が成立する事が同等になる事を証明した。これから,量子集合論の真理値が,その観測命題を強制する状態全体の集合で表現される事が導かれる。 2.量子力学の様相解釈との関連:量子力学の様相解釈では,所与の状態のもとで同時に所有値を持つと考えられる物理量の集合のうち極大なものを極大存在可能部分環(maximal beable subalgebra)と呼んで,その特徴付けが重要な研究課題とされている。一方,量子集合論では,いくつかの量子集合が所与の状態で可換であることを意味する述語が定義され,ZFCの移行原理では,所与の状態のもとで,与えられた量子集合がすべて可換であれば,その状態はZFCの任意の定理の自由変数にその量子集合の名前を代入した論理式を強制することが主張される。この成果をふまえて,所与の状態のもとで,ある量子実数の集合が可換であることと,対応する物理量の集合がその状態に対する一つの極大存在可能部分環に属することが同等である事を証明した。このことから,物理量の集合が所与の状態の一つの極大存在可能部分環に属する事と対応する量子実数を定項とするZFCの任意の定理がその状態で強制されることが同等であることが示された。様相解釈では,極大存在可能部分環に属する物理量は,その値を決定する隠れた変数が存在すると解釈される。隠れた変数の存在を特徴付ける条件として,従来,Bellの不等式などが提唱されてきたが,本研究では,上述の成果から,隠れた変数の存在を「定項の集合がZFC集合論の任意の定理を満たす」という論理学的条件で特徴付けることができた。
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