Research Abstract |
生物の健康が環境に左右されることは,よく知られている。代表的な例としては,温熱環境と熱中症との関係や季節性の感染症である。ドイツには「生気象学センター」が設置されており,天気を敏感に予知することで,疾病の発生予防・重症化予防の方策を研究している。一方,日本においては,毎日のように花粉症予想,紫外線状況などが報道され,気候(気象)と健康は密接に関係していることが認知されている。しかし,口腔領域の疾病と気象との関係については,ほとんど知られていない。本研究の目的は,口腔関連の疾患と気候(気象)との関係を記述疫学的手法で明らかにすることである。 岡山大学病院予防歯科外来を訪れる患者を対象に,平成22年6月から平成23年1月の間で,口腔内の急性炎症症状を訴えて急患として来院した患者(総計158名)のリストを作成した。次に,症状を発症した日時の天候(気温,気湿,気圧,日照時間)を気象庁データから入手し,患者データとリンクした。なお,ここでいう急性症状とは,歯周膿瘍,歯肉膿瘍,耳下腺炎,インプラント周囲炎,粘液膿泡である。 その結果,1)急患患者数のピークは8月下旬~9月上旬と11月上旬~12月下旬であった。2)一日あたりの平均気温と平均気圧が低い,最低気温が低い場合に,一日あたりの急患患者数が多い傾向にあった。3)一日あたりの平均湿度,日照時間と急患患者数との間に一定の傾向は認められなかった。 口腔局所の因子やライフスタイル,遺伝等が疾患の発生に関与していることはいうまでもない。しかし,現実の臨床においては,必ずしもそのような因子のみでは説明できないのも事実である。今後は,例数をさらに増やし,また慢性症状についても検討を加える予定である。
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