2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22682008
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
高瀬 克範 北海道大学, 文学研究科, 准教授 (00347254)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | カムチャツカ半島 / 北千島 / 土器 / 編年 / 型式論 / 放射性炭素年代測定 / 国際情報交換 / ロシア |
Research Abstract |
カムチャツカ半島南部および北千島から安定的に出土する唯一の土器である内耳土器の編年確立が第1の目的である。国内はもとより海外に保管されている資料も可能な限り実見した結果をふまえ(前年度までに実施済み),型式論的な考察にもとづいて対象地域の内耳土器をIa,Ib,II,III類に区分した。さらに,前年度に実施したカムチャツカ半島南部クリル湖における野外調査で回収した木炭の放射性炭素年代測定により,Ia類は15世紀後半~17世紀前半,II類は17世紀後半以降の年代が与えられることが判明した。理化学年代はえられていないもののIa類とII類の中間的様相を呈するIb類が17世紀,出土遺構の特徴や共伴遺物からみてもっとも新しい段階に位置づけられるIII類が18世紀後半~19世紀初めの所産と推定された。Ia類は内耳土器の模倣対象となった内耳鉄鍋の形態的特徴をもっとも色濃く保持しており,時間を経るにつれて鉄鍋の特徴が希薄になり,土器の作りも粗くなってゆく変化の方向性を明確にとらえることができた。 第2の目的は,カムチャツカ半島北部から出土する古コリャーク文化の土器編年の確立である。この課題について,資料が少ない半島東海岸(カラガ湾周辺)における野外調査を実施した。これにより,古コリャーク文化の土器に加えて,その地域的ヴァリエーションなのか否かが依然として不明であるイヴァシュカ文化の土器も多数回収することができた。あわせて,同じ遺構から放射性炭素年代測定用のサンプルも採取することができたため,今後はこれらの分析を通じて半島北部の土器編年も体系化できることが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的の一つであった内耳土器の編年は,今年度までの研究により完成をみた。研究内容は英文ジャーナルに掲載され,世界屈指のダウンロード数をほこる北海道大学の機関リポジトリHUSCAPからも入手可能である。このため,国内の研究者のみならず,カムチャツカ半島や北千島の研究を遂行しているロシアやアメリカの研究者とも容易に成果を共有できる。 これまでその変遷はもとより実年代も不明であった内耳土器が,17世紀半ばを境にして少なくとも新古2段階にわかれること,それぞれの段階はより細かく見ればさらに2段階に細分されることが明らかにできたことは,今後の人類適応の考察の基盤になることが期待される。たとえば,カムチャツカ半島でより広い内耳土器の分布が見られるのは古い段階であること,北千島~カムチャツカにおける人類の活動の画期は15世紀半ばと17世紀半ばにあることなど非常に興味深い現象が浮かび上がってきており,これらの背景を考えることが今後の検討項目として認識できるようになった。 もうひとつの研究課題である半島北部の土器編年については,データが乏しく編年体系を確立するうえで懸案となっていた東海岸において,幸運にも古コリャーク文化のみならずイヴァシュカ文化の資料・試料を多数採取することができた。オホーツク海北岸やカムチャツカ半島西海岸の分析はすでに終了しているため,このデータと東海岸の分析結果をつきあわせることにより半島北部の研究についても大きく前進させる目処がついた。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は本研究プロジェクトの最終年度にあたるため,カムチャツカ半島北部の土器編年,イヴァシュカ文化の年代観や系統性の問題を英文で研究論文にまとめ,当初掲げたすべての目的達成を目指す。そのために,2013年度のできるだけ早い段階でカラガ湾周辺の放射性炭素年代測定を委託し,結果をはやめに掌握できるようつとめる。そのうえで,不足するデータや図面類を収集するためカムチャツカ半島での現地調査(野外調査ではなく,室内における資料収集)を実施する。オホーツク海北岸やカムチャツカ西海岸のサンプルの年代測定や編年はすでに終了しているため,カムチャツカ半島東海岸との対比によって編年の体系化をはかる。 研究成果の発信においては,これまで英語での発信を重視してきたため,今後はその内容を日本語でも還元していく方策をとる。学会における口頭発表のほか,博物館の友の会や協会の機関誌などを活用して成果を専門家だけではなくよりひろく社会に還元していく試みを並行して実施する。
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Research Products
(1 results)