2011 Fiscal Year Annual Research Report
ブータンにおける環境保護行政と村落社会の価値体系の再編に関する政治人類学的研究
Project/Area Number |
22710243
|
Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
宮本 万里 国立民族学博物館, 現代インド地域研究拠点, 研究員 (60570984)
|
Keywords | ブータン / デモクラシー / 環境政策 / 文化の政治 / 国立公園 / 政治人類学 / 国際情報交換 |
Research Abstract |
23年度はまず6月末に実施された地方統一選挙の視察を実施した。この地方選挙は2008年の新政府樹立直後に実施される予定であったが、地方自治体法や地方選挙法その他の制度設計に関する議論が国会で紛糾したため、実に3年間の延期を経て実施されたものであった。選挙の際には取得が困難とされていた選挙委員会から正式な視察許可を得て、投票会場の内部を観察することができたほか、村人へのインタビューを行い、人々の意識変容をとらえようと試みた。なぜなら、こうした意識変化が環境保護政策に対する村人の対応に重要な変化をもたらすと考えたからである。 また、環境保護政策を導入する主体に関しては、それほど大きな変化はいまのところ起こっていないことが明らかになった。というのも、森林局をはじめ強固な官僚システムが支配する制度は、新政府の下でも変わらずに継続されているためであり、またブータンの環境主義を主導する役割を国王と王家が担うという以前からの暗黙の約束事も、変わらず引き継が劉たようであった。しかしながら、政策からみると、共同体に森林の所有と資源活用・木材販売を認めるコミュニティ・フォレストリの政策が積極的に導入されおり、森林国有化策の緩和が進んでいるようである。教育・就業機会の拡大や農業の機械化がすすみ、道路・電気といったインフラ整備が政権のマニフェストとして急ピッチで進められるなか.牧畜民と農耕民の間での米と乳製品の交換や、互酬的な労働交換に依存してきた農村社会でも、現金経済に対するニーズが日増しに高まっている。そうしたなか、森林政策においても、市場経済の影響を引き受けざるを得ない状況が生まれつつあることがみてとれる。 冬期の現地調査では、外国人へ解放された直後の南ブータンの国立公園において調査が可能となった。インド国境に隣接する南部地域の政治的・経済的重要性は明らかであり、ブータン社会の多様性を理解するための有用な調査地の下調査ができたことは大きな成果であった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
対象国であるブータンのウゲン・ワンチュック環境保全研究所との研究連携が順調にすすんでおり、23年度に自身が下調査を行った南ブータンの国立公園において、今年度はより詳細な研究調査が可能となる予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究課題におけるこれまでの調査では、従来のブータン中東部を中心とした自身の調査地とは異なる社会文化状況および生態環境に置かれた地域の自然環境保護の状況についての知見を得るため、ブータンの東部および南部の地域においてフィールド調査を積極的に行ってきた。今年度は政府の行政資料にもあたりながら、地方政治や民主化の動向を踏まえて各地域の政治状況や開発の進行状況を明らかにし、自然保護行政下での社会文化変容の分析を進めていく。
|
Research Products
(5 results)