2012 Fiscal Year Annual Research Report
ブータンにおける環境保護行政と村落社会の価値体系の再編に関する政治人類学的研究
Project/Area Number |
22710243
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Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
宮本 万里 国立民族学博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 研究員 (60570984)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 国際情報交換 / ブータン / 南アジア地域研究 / 文化人類学 / デモクラシー / 環境保護 / 統治性 / 価値体系 |
Research Abstract |
24年度の研究では、国立ウゲン・ワンチュック環境保全研究所との研究連携のもと、ブータンの村落地域における価値体系の変容を、自然資源利用の変化を手がかりに描き出そうと試みた。ブータンは古くは薬草の国とうたわれるほど、薬効のある植物資源が多いことで知られている。しかしながら、近年は保健省による近代病院制度の拡張政策の結果国内の遠隔地においても近代医療へのアクセスが拡大している。多くの村で基本的な医薬品を入手することが出来、村の人々が土着の医療知識に触れることは少なくなっている。しかしながら、中央ブータンではまだ薬草やその利用についての知識を持つ者が残されている。今年度は夏期にブータンの連携機関とフィールド調査に関する会議を実施し、カウンターパートとの打ち合わせを行ったのち、春期の調査ではトンサ県の二つの村で主要なインフォーマントを同定し、植物標本採集と利用に関する知識の収集とその変容に関して聞き取り調査を行った。 トンサ県の調査対象村はジグメ・センゲ・ワンチュック国立公園のなかに位置するノブジ村とジャンビ村である。ジャンビ村はブータンの先住民といわれるモンパの人々が居住する村であり、仏教以前からボン教が信仰され、モンパ特有の呪術師であるパウが幾人も転生して多様な治癒儀礼に従事してきた。今回の調査では、そうした儀礼の観察も実施しつつ、もともと狩猟採集を生業としてきたモンパ社会の信仰や自然観を含む価値体系の理解につとめた。モンパ社会の事例は、従来農耕牧畜文化と仏教をブータンの国民文化として排他的に表象してきた政府の政策に対する批判的な検討を促すものであり、またデモクラシーを含む分権化と、集権化あるいは国民統合、そして自然保護という名で人々を規律化する統治システムとが入れ子状に共存する現代ブータンの政治文化の現状をも浮き彫りにしているといえるだろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
対象国であるブータンのウゲン・ワンチュック環境保全研究所との研究連携が順調にすすみ、今年度は連携研究として自然資源利用に関する土着の知の変容という視点から、村落社会の価値体系を捉えるという試みを行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
ブータンでの民主化プロセスは、現在のところ官僚主導の環境政策にはそれほど大きな変化を与えていない様子である。しかし、近代化のスピードはより速度を増しており、村落社会の暮らしは近年劇的に変容しつつある。そのため、今後の方針としては、環境政策の与える影響という視点からのみならず、デモクラシーと開発および市場主義経済が与える影響とその相互関係をより注視しながら、国立公園の人々の暮らしと村落社会の価値変容をより多元的に捉えていきたい。
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Research Products
(6 results)