2011 Fiscal Year Annual Research Report
新しい知識像のために-生のロゴスとしてのフロネーシス
Project/Area Number |
22720012
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Research Institution | Seijo University |
Principal Investigator |
荒畑 靖宏 成城大学, 文芸学部, 准教授 (50516614)
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Keywords | 形式的告示 / 解釈学 / フロネーシス / 間接的伝達 |
Research Abstract |
平成22年度のアリストテレス研究ならびに初期ハイデガーのアリストテレス受容の研究を受けて、平成23年度の前半は、ハイデガーのフロネーシス概念の受容について本格的に研究をおこなった。ところがその過程で、アリストテレスの理解するかぎりでのフロネーシス的知の「形式性」(内容の無規定性)や「前提性」(このタイプの知を習得するには、主体はその範囲も程度も定かではないある種の前提を満たしていることが必要とされる)は、なによりも初期ハイデガーが一貫して自身の哲学の方法として彫琢しようとしていた「形式的告示(formale Anzeige)」の本質的諸特徴と符号することを発見した。そこで23年度の後半は、「形式的告示」についての定評ある研究文献を収集・精読することに費やされた。その結果、『世界観の心理学』におけるヤスパースの哲学的方法やキルケゴールの「間接的伝達」の方法などとの関連性を指摘する研究や、ハイデガーの「解釈学」的方法にとっての当該概念の重要性を指摘する研究や、中・後期ハイデガーの「存在の思索」と当該概念との密接な関連性を指摘する研究などはあるものの、当該概念をフロネーシス的知のいわばメタ哲学的発展とみなす研究は皆無であった。しかしながらこれらの研究はいずれも、形式的告示とは何であり、それはわれわれにとって何をするべきものとされているのかについて、非常に不明確な説明しか与えていない。23年度の研究の第一の成果は、この不明確さの原因は、形式的告示とは、ハイデガーがまさにフロネーシス的な知を哲学的方法として採用し発展させようとしたものにほかならない、ということに以上の先行研究が想い至らなかったことにあるということの発見である。したがって、このことを証明する議論を構成するための準備研究が、24年度の第一の課題となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上述のとおり、ハイデガー研究を進めていく中で、彼にとっての「フロネーシス」概念の意義は、それを単に人間の日常的-科学的知識の本質形式とするというオブジェクトレベルでの議論においてだけではなく、(哲学が学を目指すとするなら当然のことだが)哲学それ自体の方法の本質形式ともみなされているというメタレベルでの議論においても評価されるべきであることが判明したため、当初の予定になかったメタ哲学的研究も必要となったため。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、初期ハイデガーの「形式的告示(formale Anzeige)」という方法は、彼が「フロネーシス」的な知の外見上の形式的空虚性を(キルケゴールの「間接的伝達」という方法とも関連させつつ)むしろ自身の哲学の原理的方法として積極的に換骨奪胎したものではないかという予測のもとに、これをさらにウィトゲンシュタインの『論理哲学論考』における「示し(Zeigen)」という方法とも関連させることによって、哲学的方法としてのフロネーシスという主題について、メタ哲学の分野での研究をおこなう予定である。具体的には、ハイデガーに関するこの主題での先行研究は非常に少ないため、ハイデガーについては主に一次文献に当たることになる。
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