2010 Fiscal Year Annual Research Report
書跡資料の調査分析を中心とした付合文芸の諸相に関する研究
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22720085
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
尾崎 千佳 山口大学, 人文学部, 准教授 (50335759)
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Keywords | 日本文学 / 連歌 / 俳諧 |
Research Abstract |
平成22年度は、西山宗因書跡資料のメタデータにつき、古書目録・展示図録・その他図書によって収集すると同時に、学習院大学日本語日本文学研究室・天理大学附属天理図書館・財団法人柿衛文庫・八代市立博物館未来の森ミュージアムに赴き、宗因書跡資料の現物調査を実施して、装訂・法量・下絵等の書誌データを採集のうえ、デジタルデータもしくは紙焼写真を入手した。さらに、収集・採集したデータに基づき、短冊・色紙・懐紙のデータベースの作成にも着手しつつ、如上の作業の過程で特に問題を見出した書跡資料については、調査・分析の成果を論文にまとめて公表した。その一は、五本の自筆巻子本が伝わる宗因の奥州紀行をとりあげた、「東下りの変奏-宗因の奥州紀行をめぐって」(『国語と国文学』第88巻第5号、平成23年5月)である。同稿では、奥州紀行各伝本の書誌情報を整理し、無題本系統と有題本系統の二種に分けられることを指摘したうえで、無題本系本文・有題本系本文ともに、物語世界が『伊勢物語』東下りに大きく依拠して成り立っていることを明らかにした。さらに、娘追悼百韻を付載する無題本系諸本こそ磐城平藩主嫡男の内藤義概に献呈された紀行の原型であり、有題本系諸本は、爾後、晴れの席で飾られるにふさわしく祝言の結末に意匠を変えて二次的に成立したものであるとの推測を示した。その二は、談林俳譜の先達を顕彰すべく描かれた「談林六世像賛」をとりあげた、「八代市立博物館未来の森ミュージアム新収「談林六世像賛」」(『上方文藝研究』第8号、平成23年6月刊行予定)である。同稿では、談林六世像の上部に貼り込まれた宗因・西鶴・才麿等の短冊が各人の真蹟にかかることを検証し、それぞれの像容も信頼すべき原画を忠実に写したものである可能性が高いことを指摘して、江戸時代後期、谷素外等の江戸談林を標榜する人々が、自らの俳系の正統性をつよめる目的で、宗因や西鶴の真蹟資料を収集していた事実を明らかにした。両稿ともに、巻子装や掛幅装にかかる書跡資料を検討の対象としたものであるが、版本や活字テキストからは得られない書誌情報に注目することで、作品の成立や享受の諸相をうかびあがらせたところに意義があると考える。
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Research Products
(2 results)