2010 Fiscal Year Annual Research Report
「国民小説」とオリエント表象ー19世紀イギリス・アイルランド文学史再考
Project/Area Number |
22720100
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
吉野 由利 一橋大学, 大学院・法学研究科, 准教授 (70377050)
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Keywords | 英文学 / アイルランド文学 / 国民小説 / オリエンタリズム / 文学史 / ネーション / ジェンダー / 植民地 |
Research Abstract |
アイルランドを「植民地」のカテゴリーに入れること、アイルランド研究にポストコロニアル理論を援用することの妥当性は、専門家の間でも議論が継続している。従って、平成22年度前半は本研究の第一段階として、ポストコロニアル批評を取り巻く論争の概観、特に、アイルランド文学研究における応用の問題点の整理を重点的に行った。また、個別的なテーマ研究として、ヨーロッパ近代と「他者」の問題を、国民文学と言語、ジェンダー、宗教の様相から考察した。年度後半は、18世紀から19世紀にかけてイギリス・アイルランドで生成されたオリエンタリスト主要テクストの検証を行った。20世紀のポストコロニアル理論に先立つ当時の帝国主義言説を直接確認するという意味で、重要な手続きであった。特に、Charles Vallanceyの手稿の調査は、国民小説がジャンルとして確立する歴史コンテクスト、精神的土壌の理解を深める手がかりとして非常に有意義であった。また、アイルランド国立図書館が入手したばかりの稀少なオリエンタル物語の手稿を調査する機会を偶然与えられたのも貴重な経験であった。以上の研究内容に関し、国内では入手・閲覧が困難な資料の調査を次の図書館で実施した:大英図書館・ロンドン大学付属図書館、アイルランド国立図書館、ロイヤル・アイリッシュ・アカデミー図書館、ダブリン大学図書館、グレース王妃記念アイルランド図書館。成果としては、(1)ヨーロッパ近代と「他者」ないし「オリエント」の問題を、水村美苗の日本近代文学論をアイルランド文学研究との比較的見地から論じたGlobal Studies学会での口頭発表、(2)世界の個別的なジェンダー表象を分析し、近代国民国家の正史・文学史の相対化を試みる共編著『ジェンダー表象の政治学』、がある。
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Research Products
(2 results)