2011 Fiscal Year Annual Research Report
英国ドキュメンタリー映画の伝統とブリティッシュ・ニュー・ウェーヴの総合的研究
Project/Area Number |
22720111
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
佐藤 元状 慶應義塾大学, 法学部, 准教授 (50433735)
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Keywords | イギリス映画 / ドキュメンタリー / ニュー・ウェーヴ / リアリズム / モダニズム |
Research Abstract |
本研究は、イギリス映画のリアリズム映画の表象が、1930年代から1960年代にかけて、どのように変容してきたのかを時代ごとに検証し、20世紀のイギリス映画を把握するための一つのパースペクティヴを提唱するものである。平成23年度は「戦後の福祉社会の到来とフリー・シネマ」を中心に研究を遂行した。同テーマに関する基礎文献の読解を続け、映像資料の視聴を幅広く行った。また当初の計画よりも研究が進捗しており、翌年に予定していた「ブリティッシュ・ニュー・ウェーヴと1960年代以降の社会的リアリズム」の研究にも踏み込むことができた。ロンドンのBritish Film InstituteのNational Libraryにて、ジョセフ・ロージーの1950年代の映像を視聴するとともに、同時代の一次資料の調査を行った。 本年度の主要な研究成果としては、カレル・ライスの『モーガン』と『フランス軍中尉の女』に関する論考を挙げたい。『モーガン』論は、1960年代半ばのスウィンギング・ロンドンの時代に、ライスがフリー・シネマ以来の社会的リアリズムの傾向をどのように継承していったのかを明らかにしたものである。また『フランス軍中尉の女』論は、ライスが『モーガン』以降に発展させてきたメタフィクションの技法を分析したものである。以上の二つの論文は、未刊行の『土曜の夜と日曜の朝』論と合わせて、ライスの映画作家としての仕事を総括するための試みであり、ニュー・ウェーヴの軌跡を通時的に理解することを可能にする点で、本年度の研究のなかでもっとも重要な仕事として位置づけられる。 本研究の意義は、ドキュメンタリーとニュー・ウェーヴ、そしてそれ以降の社会的なリアリズムの連続性をさまざまな観点から検証する点にあるが、本年度は、カレル・ライスという映画作家の仕事を概観することによって、その連続性を裏付ける貴重な成果を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は、「戦後の福祉社会の到来とフリー・シネマ」の研究が中心課題であったが、フリー・シネマと翌年度に研究予定の「ブリティッシュ・ニュー・ウェーヴと1960年代以降の社会的リアリズム」の関係が密接であることが、映画雑誌のSight and SoundやFilms and Filmingの調査を通じて明らかになったため、後者の研究にも踏み込んで、一気に研究を進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、当初の計画以上に進展しているが、来年度も、基本的には、当初の三年計画通りに研究を遂行する予定である。「ブリティッシュ・ニュー・ウェーヴと1960年代以降の社会的なリアリズム」が最終年度となる平成24年度のテーマである。平成24年の秋には、本研究の主要な成果となる『ブリティッシュ・ニュー・ウェーヴの映像学』(仮題)がミネルヴァ書房より出版されるため、平成24年度の前半は、この書物の完成が最優先課題となるだろう。平成24年度の後半は、この書物には取り込むことのできなかった副次的なテーマについて、個別の論文の執筆を行う予定である。
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Research Products
(6 results)