2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22720143
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Research Institution | Takasaki City University of Economics |
Principal Investigator |
大村 和人 高崎経済大学, 経済学部, 准教授 (80431881)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 中国文学 / 南朝 / 楽府 |
Research Abstract |
まずは前年度に引き続いて「長安道」に関する問題について考察した。南朝時代に流行した民間の歌謡に見られる地方都市では、人が頻繁に出入りするという流動性が強調されている。しかし、南朝梁の蕭綱による民間歌謡の模擬作品に見られる地方都市は、「長安道」などで描かれた古都・長安と同じく、人流の固定点・帰着点として描かれており、その性質が根本から変更されている。この変更は人の流動化を厭い、人が滞留する都市こそが好ましい場所であるという知識人の伝統的認識に由来している。これは“俗”なる民間歌謡に知識人の伝統的な“雅”なモチーフを組み込んだものであり、「“俗”の“雅”化」と言える。これは、南朝「艶詩」が「雅の俗化」であるという説に修正を促すものである。 次に取り組んだのは、桑摘みの女性が主人公である楽府「陌上桑」の南北朝時代の模擬作品の研究である。王褒の模擬作品には、楽府「相逢行」に見られた「妻の居る豪邸に帰宅する裕福な兄弟」というモチーフが組み込まれている。青年期に王褒が所属していた文学集団の領袖、蕭綱の「陌上桑」模擬作品や他の作品にも「夫の帰宅」という「相逢行」と共通するモチーフが見出される。このモチーフは「陌上桑」の原典には無く、蕭綱より上の世代の詩人、例えば沈約の模擬作品にも見られない。これは「艶歌行」という楽府の古辞と蕭綱の模擬作品にも見られるが、「陌上桑」とその模擬作品も「艶歌」と題されることがあるため、蕭綱の「陌上桑」の模擬作品にも「夫の帰宅」が組み込まれたと考えられる。他にも蕭綱たちの文学集団の間では「相逢行」などのように幸福を言祝ぐ作品が好んで制作された。以上のような文学の傾向が王褒の「陌上桑」模擬作品にも反映されていると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
楽府「陌上桑」の模擬作品の発展過程は複雑であったが、幾つかの作品に共通して見られる特徴的なモチーフを抽出できたことによって、問題解決の見通しが立ったため。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度はまず楽府「陌上桑」および関連作品群の研究を完成させる。その後、「言志」という観点から斉梁「艶詩」詩人の文学思想を再検討することを予定している。これまで六朝文学思想史の流れは「志」と「情」という二つの対立概念を中心に捉えられることが多く、斉梁「艶詩」は後者に属する作品群であると目されて来た。しかし、2007年に筆者が発表した論文では、斉梁時代の詩人たちの認識において、彼らの「艶詩」はむしろ前者に属するものであったことが明らかになった。今年度の研究では、文献の原文の検索システムや紙媒体の索引を用いて斉梁時代の詩人の「志」に関する言説を抽出し、それらの内容を解釈・分析して、更に彼らの実作品も参考にしつつ、斉梁詩人における「志」の真の意味を再検討したい。
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Research Products
(1 results)