Research Abstract |
本研究は,シャドーイング(聞こえてくる音声をほぼ同時にまたは少し遅らせて,できるだけ正確に繰り返して発音する英語学習法)学習中における脳内言語処理メカニズムを解明し,より効果的な英語学習法を特定することを目的とする。 高等専門学校専攻科1年生を対象とした5日間の英語夏季集中講座において,60分授業4回をシャドーイングのみで学習したグループ(13名),シャドーイングと速読(短時間で英文の大意を把握する読解学習)を組み合わせて学習したグループ(12名),TOEIC対策問題集による語彙・文法,読解,リスニング対策を行ったグループ(11名)に分け,各グループの英語熟達度の学習前と学習後の伸びの差を,IRT(項目応答理論)に基づいた英語能力判定テストを用いて調査し,統計解析を行った結果,次の結果が得られた。(1)シャドーイング学習はリスニング内容理解力を有意に向上させるが,読解内容理解力向上に対する有意な効果はなかった。(2)シャドーイングと速読を組み合わせた学習は,リスニング内容理解力と読解内容理解力の両方を有意に向上させ,3つの学習法のうちで最も学習効果が高かった。 次に,NIRS(近赤外分光法脳計測装置)による脳内血流および酸素消費変化に関する脳科学実験を,被験者12名(男性6名,女性6名,20歳代,3年以内にTOEIC470~560点取得者)を対象に,シャドーイング,リスニング,リピート(聴取時,発話時)学習中における学習者の脳内酸素消費,脳内血流量が変化した部位の違いの特定,ならびに,各課題において,同じ教材による学習を5回繰り返すことで,1回目から5回目の脳内酸素消費,脳内血流量にどのような変化が生じるかを分析することを目的として実施した。リスニング,シャドーイング,リピートの3課題,それぞれ異なった英文を用いて,各課題とも初出条件で,開始から30秒間の休憩をはさんで,同一英文の課題を5試行ずつ行った。 COE(脳酸素交換機能マッピング法:Cerebral Mapping of Oxygen Exchange)による解析を行ったが,全ての解析を完了していないため,代表被験者1名による解析結果から得られた結果を報告する。ウェルニッケ野での酸素消費量はリスニング課題では増加したが,シャドーイング課題では減少した。脳血流量はシャドーイング課題とリピート課題の両課題において,両側運動野とブローカ野で増加した。総括として,シャドーイング課題ではウェルニッケ野での酸素消費が減少したため,じっくり聞くことができるリスニング課題よりも意味理解が低下する可能性が考えられる。また,シャドーイング課題とリピート課題では,脳血流量の増加部位は同様の傾向を示したが,酸素消費量の増加は異なる脳部位に限局していた。今後は被験者全員の解析を行い,シャドーイング学習中における脳内言語処理メカニズムの解明を目指す。
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