2011 Fiscal Year Annual Research Report
土器生産と分業化体制および交易網の発達からみた日韓の社会複雑化に対する比較研究
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22720288
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
長友 朋子 大阪大学, 文学研究科, 招聘研究員 (50399127)
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Keywords | 弥生~古墳時代 / 土器製作技術と生産体制 / 鉄器の導入 / 分業化 / 朝鮮半島との比較 / 窯導入 |
Research Abstract |
1.技術・生産に関する西日本の検討(後半) 本年度は、前年度の民族学的検討成果をふまえつつ、前年度の出合窯と陶邑窯から出土した朝鮮半島系土器調査および検討成果に加え、陶邑窯の最初期の窯から出土した土器調査をおこなった。その結果、大規模に展開される陶邑窯と単発的に出現する出合窯とでは、朝鮮半島内でのルーツの差だけでなく、渡来する工人形態にも違いがあることが把握できた。 2.技術・生産に関する朝鮮半島の分析(後半) 韓国での調査を2度おこない、百済の中心地である風納土城の土器製作技術の検討と、新羅の窯に関する最新の情報収集をおこなった。その結果、百済の土器製作技術には複数系統あり、楽浪での土器生産体制と類似する生産体制をとっていたことが理解された。百済の窯については調査済みなので、本年度おこなった予備調査をふまえて、来年度新羅の窯について実見して補足調査をおこない、成果をまとめる予定である。 3.分業体制の研究に関する鉄器生産の検討 分業化の検討のため、鉄器生産形態について本年度集中的に調査をおこなった。近畿地域の出現期の鉄器生産遺跡と、九州における弥生時代中後期の鉄器生産遺跡の調査を対象とした。その結果、近畿地域では、鉄器生産の形態が一様ではなく、鉄針製作など玉造に付随する集落、小規模な鉄器生産遺跡、複数の炉で長期にわたり鉄器生産をおこなう集落など多様な状況のあることが理解された。これに対し、九州の鉄器生産遺跡からは一定量の鉄器片が出土し、安定的な生産がみこまれることがわかった。 4.土器窯および青銅器製作実験に関する調査 土器窯の焼成実験は長さの違う2基の窯を対象としおり、燃料と焼成温度、窯形態を比較検討することができたまた青銅器実験で型製作から完成までのプロセスを観察、記録した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度の調査検討をふまえ、実施計画の順序は前後する部分があるものの、着実に計画した内容の調査と分析を進めているので、おおむね順調に進展している。本年度は3年計画の中間年度であるため、成果報告発表はおこなわなかったが、集中的に資料収集と調査をおこない、個々の項目についての成果がでてきた。これらをまとめ、最終年度である来年度は、学会発表などで成果報告をおこなう予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、近畿地域を中心として、西日本の生産体制の展開と分業化について、その展開過程と特質を明らかにする。この研究成果をふまえ、今後は、朝鮮半島の生産体制と分業化について、新羅、百済、伽耶の領域に分け、比較することで朝鮮半島内の生産体制の変遷と特質を解明したい。その場合、製作技術から生産体制を読み解く本研究の分析視点が非常に有効であると考えられる。資料の急増により、韓国考古学では個々の地域に限定した研究が主流になっているなか、これらの研究をしっかりと把握しながらも、地域間比較をおこない全体的に考察する視点は、今後非常に重要になると考えられる。さらに、朝鮮半島の生産と分業化を解明することは、日本列島の器物生産から社会基盤の形成への理解へもつながり、意義の大きい研究になる。
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