2011 Fiscal Year Annual Research Report
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22730008
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
苑田 亜矢 熊本大学, 法学部, 准教授 (80325539)
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Keywords | 基礎法学 / 西洋法制史 / コモン・ロー / カノン法 / 陪審 |
Research Abstract |
本研究の目的は、コモン・ローの刑事訴訟手続の中心的特徴である陪審の一類型で、刑事事件につき正式起訴の決定にあたる大陪審の起源である起訴陪審が、12世紀のイングランドで成立した要因を、当時の教会法および教会裁判手続との関係から解明することにある。本年度に実施した研究の成果は、以下の通りである。 起訴陪審が成立した当時の教会法および教会裁判手続を明らかにするために必要となる12世紀の教会法学文献と教会裁判関係史料に関して、第一に、教会法学文献について、その写本の一部を、ロンドンの英国図書館、ケンブリッジ大学の各カレッジ図書館、オクスフォード大学ボドリアン図書館などで閲覧・調査し、可能な場合は、マイクロ・フィルムや画像データの形で入手することができた。第二に、訴訟手続を述べたordo judiciorumと呼ばれる作品群については、それらを解説・研究した論文や著書を国内外の図書館等において収集・調査し、起訴陪審成立当時に作成されたordo judiciorumの内容分析を行なうことができた。第三に、教会裁判関係史料については、12世紀の段階では未だ教会裁判所の訴訟記録が保管されるシステムになっていないことから、修道院等の年代記やカーチュラリーの中に散らばった判決確認文書や書翰(裁判助言書等)の調査が必要であるところ、その調査を継続して行ない、一部整理することができた。第四に、研究の中間報告として、2011年8月27-29日に九州大学で開催された西欧中世史研究会において「イングランドにおける起訴陪審成立と教会糾問手続」と題する報告を行なうことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
一つは、訴訟手続を述べたordo judiciorumのうち、起訴陪審成立期に作成されたものについては、ラテン語の手書き写本と刊本しかないため、内容分析にやや手間取ったことが挙げられる。今一つは、教会裁判関係史料として、修道院等の年代記やカーチュラリーの中に散らばった判決確認文書や書翰(裁判助言書等)を調査し、収集する作業には、かなりの時間がかかることが想定されていたが、その想定をこえる時間がかかっていることが挙げられる。なんとか挽回したい。
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Strategy for Future Research Activity |
教会裁判関係史料として、修道院等の年代記やカーチュラリーの中に散らばった判決確認文書や書翰(裁判助言書等)を調査することを継続して行なうとともに、国王裁判所における起訴陪審の成立を、クラレンドン法という「法令」の面からだけでなく、国王裁判実務の面からも明らかにする。当時は、国王裁判所の公式な訴訟記録も残されていないため、散在する裁判記録を年代記やカーチュラリー等の中から拾い集めて、内容分析を行なう。また、1189年頃に成立した『イングランド王国の法と慣習についての論考』という国王裁判所の実務(コモン・ロー)について述べた作品の検討も行なう。 以上の検討結果を整理し、起訴陪審が12世紀のイングランドで成立した要因を、当時の教会法および教会裁判手続との関係から解明することを試みる。
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