2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22730087
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
上田 竹志 九州大学, 法学研究院, 准教授 (80452803)
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Keywords | ケア / アーキテクチャ / 民事紛争処理 |
Research Abstract |
本年度は、主にアーキテクチャ関連の書籍を収集・分析した。そして、昨年度におけるケア理論の分析と合わせて、ゲーム、ケア、アーキテクチャの三幅対について、理論的な整理を行った。 その結果、昨年度に得られた知見の延長として、民事紛争処理におけるケア・アーキテクチャの用語は、現在において作動している社会現象(うまくいっているケア、順調に機能しているアーキテクチャ等)を名指す概念として使用するのではなく、その作動が失敗したとき、あるいは将来そのような作動が求められるときに、ゲーム的な自己責任分配に収まらない責任コミュニケーションのための用語として機能する可能性があり、そこにおいて「ケア的な応答責任」、「アーキテクチャ的な管理責任」が問われうるとの結論に至った。さらに、これらの責任概念は、責任分配の時間的推移と密接な関連をもっていると結論付けるに至った。 すなわち、通常の社会理論において使用される自己責任は、時間が経過してもその分配が変更されることはなく、与えられた行為責任と、その懈怠や不首尾の結果責任は一致する。しかし、ケア的な応答責任は、事後に責任懈怠の結果責任が問われない、純粋な行為責任を指示し、他方、アーキテクチャ的な管理責任は、事前に行為責任が示されない、純粋な結果責任を指示する。このような責任コミュニケーション上のモードが存在可能で、かつ現代において有力な社会理論の中にその萌芽的契機を見出すことができることは、現代の民事紛争処理における責任分配のコミュニケーションに際して、特にしばしば責任帰属に関する議論が閉塞状況に陥る際に、新しい豊かなコミュニケーションのための語彙を提供する可能性があるものと考えられる。 以上について2011年9月、法社会学会九州支部研究会で報告を行った。また、上記報告の成果は、2012年中に、九州大学法学部紀要「法政研究」にて公表予定である。
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