2010 Fiscal Year Annual Research Report
海上保険法制の中での損害防止費用負担義務にかかる実証的研究
Project/Area Number |
22730098
|
Research Institution | Kinki University |
Principal Investigator |
野口 夕子 近畿大学, 法学部, 教授 (40314794)
|
Keywords | 商法 / 保険法 / 保険契約 / 損害保険 / 海上保険 / 損害防止義務 / 損害防止費用負担義務 |
Research Abstract |
わが国において、日本籍船を対象とする船舶保険に適用される船舶保険普通保険約款は1933年に、また内航貨物海上保険に適用される内航貨物海上保険普通保険約款については1943年に、それぞれ統一約款として作成・実施されたが、その当初は、他の保険分野に違わず、保険契約者または被保険者に対して損害防止義務を課すと同時に、当該義務違反の効果についても約定しながら、いずれの約款においても、保険者は損害防止義務の履行にかかる費用、すなわち損害防止費用を負担していなかった。それが改定されたのが、内航貨物海上保険普通保険約款は1989年、船舶保険普通保険約款にあっては1990年のことである。この改定を経て、現在、船舶保険・内航貨物海上保険のいずれも、保険者が損害防止費用を負担することとなっている。 これに対して、非海上保険実務においては、損害防止費用不担保約款により、保険者の大部分が依然として損害防止費用を負担していない。2010年4月にその施行を迎えた保険法は、同法13条に損害防止義務を、同23条に損害防止費用負担義務にかかる規定を設けるが、その内容は改正前商法660条1項を基本的に維持したものであり、なおかつ、保険者に対する損害防止費用負担義務を定めた同23条を任意規定とする。したがって、同法の下でも、非海上保険契約におけるこの現状に変化はないのである。 わが国の非海上保険を中心とする損害保険分野の現状に鑑み、また、このような現状に対して、海上保険実務では保険者によって損害防止費用が負担されているという事実を踏まえ、まず、かかる運用の実態を明らかにすることで、損害防止費用負担義務を巡る海上保険と非海上保険の実務上の相違が如何なる理由によるものなのかを解明することが、本研究の第一課題である。本年度は、そのため、内航貨物海上保険において、上述のようにかかる約定が改定されるに至った経緯を明らかにすべく、かかる議事録をはじめ、関連文献等の収集・分析を行った。
|