2012 Fiscal Year Annual Research Report
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22740054
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
笹本 智弘 千葉大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (70332640)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 界面成長 / 非対称排他過程 / 揺らぎ / 無限粒子系 / 行列式過程 |
Research Abstract |
今年度は、1次元KPZ方程式やその離散版の揺らぎの性質を調べる研究を中心に行った。KPZ方程式に対しては、昨年度基本的な結果を得ていた定常的な状況(ブラウン運動型初期条件)での高さ分布と2点関数に関するより詳細な解析を行い、本論文を発表した。特に、計算の際要となる組み合わせ的恒等式や、最終的な結果に行列式が現れる仕組みはこれまで調べられていたwedge型と呼ばれる初期条件の場合に対して複雑となっていることを明らかにした。またシミュレーションによる理論計算の検討もより詳細に行った。 これらの結果は、レプリカ法と呼ばれる手法を用いて得られたのであるが、その際トリック的な計算が必要となる部分があり、その点をよりよく理解する必要がある。今年度は、KPZ方程式を離散化したq-TASEPや非対称排他過程(ASEP)に対し、双対性を適用する事により同様な解析を行うことが可能であることを示した。これにより、これまで試行錯誤的に大変な計算の後に得られていたASEPの揺らぎに関する漸近的な性質を、比較的直接的に示す事が可能となった。また今回用いた方法は、レプリカ法の理解を深める上でも、またこれまでreversibleな場合を中心に考えられて来た双対性の新たな応用という観点からも興味深いものである。 現在は、上記の研究をさらに深める解析を行うと同時に、多成分系に対する考察などを進めており、部分的な結果を得つつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究においては、KPZ方程式や非対称排他過程(ASEP)の揺らぎの性質が初期条件や境界条件にどのように依存するかを明らかにすることを一つの大きな目標としていた。一つの重要な場合は定常状態の解析であり、この場合に関する成果を得るにはもう少し時間を要するかもしれないと思っていたが、幸い2011年度に研究が進展して基本的な結果を得る事ができ、さらに2012年度中にさらに解析を深め発表するところまで進めることが出来た。その意味で研究は順調に進展していると言える。ただ、当初は同時進行的に平坦な初期条件の場合や半無限系に対しても解析を進める事を目指していたが、そこまでは研究は進展しなかったので、100%納得のいく進展状況とはいえない。 また本研究においては、KPZ方程式という連続モデルにおいて成功している計算や解析が、どの程度離散的なモデルにも拡張出来るかを検討することを一つの大きな目標としているが、こちらに関しても、2012年度中に、双対性の議論を取り入れることにより、揺らぎの性質を調べ、漸近解析を行う事が出来る所までは示す事に成功しており、順調に進展していると言ってよいと思われる。ただ、例えば上記の定常状態に関する解析を離散系に拡張するというような研究はまだ行う事が出来ておらず、今後の課題として残っている。さらに、2011年にBorodin-CorwinによってMacdonald過程と呼ばれる過程が導入され、これに関する理解を深め理論を発展させるという新たな課題が生まれたが、まだまだ不十分なレベルに留まっていると言わざるを得ない。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度までに得られた成果を元に、種々の初期条件のもとでの解の性質の理解を深めるとともに、背後にある代数的構造をより明らかにしてゆく。同時に、多成分版など、これまであまり調べられてこなかった場合についても、可能な範囲で理解を深めることにチャレンジする。 まずは、離散的なモデルに関する理解を深める事に力を入れる。2012年度の研究において、q-TASEPやASEPと呼ばれる無限粒子系に対して、双対性を用いた解析を行った際には、推移確率は解の形を予想して証明するという方法を取ったが、この方法ではより一般の初期条件、境界条件に拡張することが困難であるため、生成作用素の固有関数を用いる別な方法を適用する事を目指す。これは一見細かい技術的な問題に思えるが、非対称な作用素の取り扱いに関係する興味深い課題である。同時に、この研究と深く関係するMacdonald過程に関する理解を深め、今後のさらなる進展の端緒を得ることを目指す。また、離散系における平坦初期条件や半無限系の解析はこれまであまり進展していないので、それを進めることも重要である。 また2012年度のドイツ滞在中に、Spohn教授、Giardina教授等との議論の中から、多成分系における普遍性、非対称系のおける双対性の一般化、多点相関の解析等、いくつかの新たな課題が得られた。これらは本研究の課題と密接に関係するとともに今後の発展が期待されるものなので、同時進行的に研究を進める事により、本研究をさらに推進することができるはずである。
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Research Products
(8 results)