Research Abstract |
2006年に,加熱蒸発可能なイオン液体が発見されたことから気相イオン液体の研究,特にアニオン-カチオンというイオン液体の最小構成単位の研究が始まったが,質量分析法が主でありイオン対構造の情報はほとんど得られていなかった。当研究では,気化させたイオン液体を不活性ネオン固体中に補足することで,孤立したアニオン-カチオン相互作用体の分光測定,構造研究を行い,蒸発機構を明らかとすることを目的とした。加熱蒸発したイオン対は複数の水素結合とクーロン力によって安定化されているために,200℃程度の加熱蒸発温度ではイオン対構造間でボルツマン分布に従った熱分布に達しないと考えられる。すなわち,加熱蒸発時に検出したイオン対構造は蒸発時のイオン対構造を保っていることになる。特に当該年度では,六員環構造であるピリジニウムカチオン,五員環であるイミダゾリウムカチオンとカチオン種に依存したアニオン-カチオン構造変化の様子を研究した。 実験・解析の結果,同じアニオン種(Bis(trifuluoromethanesulfonyl)imide)を用いてもカチオン種に依存して,加熱気化したイオン対構造が全く異なることがわかった。ピリジニウムカチオンの場合には,理論で予想される最安定イオン対構造が室温液体および加熱気体とも観測された。その一方で,イミダゾリウムカチオンの場合には,理論的に予想される最安定イオン対構造が室温液体では観測されたが,加熱気体では数kJ mol^<-1>高エネルギーと予想されるイオン対が最安定イオン対構造に先んじて観測された。すなわち,イミダゾリウムカチオンを含むイオン液体についてのみ蒸発時にアニオン-カチオン間で構造変化が生じていることがわかった。この相違は,イミダゾリウムカチオンの2位炭素に付加した水素原子にのみ極めて大きな正の電荷分布があることから,蒸発時にイオン対間の相互作用が小さくなるイオン対構造が先んじて蒸発していると考察した。この研究によって,イオン種の組合せに依存するイオン液体の新たな物性を見出した。
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