Research Abstract |
本研究では,ハミルトン偏微分方程式に対し,ラグランジュ力学に基づく新しいエネルギー保存型数値解法を構築し,それを発展させることで,解析力学的性質を保った数値解法を得ることを目的としている.平成23年度は,平成22年度に開発した保存型スキーム導出法をさらに拡張し,非線形楕円型偏微分方程式に対しても構造保存型数値解法が得られることを示した.対象としている構造は,対称性から導かれる保存則であり,数値実験により,確かにその保存則が保たれていることを確認した.これは,この方法で用いている離散勾配法の楕円型方程式への拡張とも言える.また,非線形Klein-Gordon方程式に関して,数値実験により,既存の離散力学から得られるスキームとの比較を行った.その結果,まだ理論的な根拠は得られていないものの,提案スキームは既存の理論から得られるものに近い性能をもつ場合があることが分かった.他方,ハミルトン力学的アプローチについても,いくつかの研究を行った.まず,離散微分形式の理論と組み合わせることで一般のメッシュへの拡張を行い,また,離散微分形式の理論における幾何学的不等式とエネルギー保存則を組み合わせた安定性解析も行った.さらに,Ostrovsky方程式と呼ばれる方程式について,この方程式のマルチシンプレクティック構造と,それを利用した数値解法についての研究を行った.その他,解析力学から導出されるものに限らず,一般に保存則をもつ微分方程式について,複数保存則を保つ数値解法の導出法を,離散勾配法を用いることで導出する方法を提案した.これは,離散勾配をうまく利用することで,離散的接空間のようなものを作成し,そこへの射影やそれを用いた局所座標系を構築することで達成した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請時に着想を得ていた非線形Klein-Gordon方程式についてのアイデアはうまく一般化され,実際に,ラグランジュ力学に基づく保存型数値解法を得るための一般論が作成されつつある.また,申請時には発展型の方程式のみを想定していたが,そうではない,楕円型方程式への拡張といった想定外の発見も得られた.
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Strategy for Future Research Activity |
課題は多く残っているが,たとえば,今回得られたスキームの中には予想よりも良い性質をもったものも存在していた.その理由を後退誤差解析などによって考察することが挙げられる.特に,何らかの変分構造が背後に存在しないか,といった問題は重要である.また,これまでは有限差分法のフレームワークで考えていたが,離散微分形式の理論との連携によって,有限体積法版のスキームも構成できると期待される.これについても,実装評価などを行うことが必要である.その他,大規模問題への対応を考え,並列計算機による実装や,そのためのアルゴリズム開発なども行うことが好ましい.
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