2011 Fiscal Year Annual Research Report
潜在的経年劣化事象を考慮した低炭素ステンレス鋼溶接部におけるSCC停留モデル確立
Project/Area Number |
22760070
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
阿部 博志 東北大学, 大学院・工学研究科, 助教 (30540695)
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Keywords | ステンレス鋼 / 溶接部 / 凝固モード / 応力腐食割れ / 熱時効 / スピノーダル分解 |
Research Abstract |
本研究の最終的な目的は、沸騰水型軽水炉の低炭素ステンレス鋼溶接部における応力腐食割れ(以下、SCC)を対象として、溶融境界近傍特有の微視組織ならびに低温時効が高温水中SCC進展挙動に与える影響を明らかにし、実機健全性評価の基礎となるSCC停留モデルを確立することである。今年度は、昨年度に引き続き高周波誘導加熱を用いてδ相分布密度の異なるSUS316L試料を作製し、δ相分布密度に及ぼす熱処理最高温度ならびに最高温度保持時間の影響を評価した。その知見に基づき、最適な熱処理条件を明らかにした。また、SUS316L溶接試料の低温時効データの拡充を行った。具体的には、400℃ならびに475℃時効処理を施し、δ相の効果挙動を評価した。さらに、上記で作成したδ相晶出試料の未時効材について、高温水中SCC挙動を評価した。き裂先端位置とき裂経路長さをそれぞれδ-γ界面とγ-γ界面に分類して統計処理することで、き裂進展速度の相対値、すなわちδ相のき裂停留効果を半定量的に求めた。 以下に得られた知見を列記する。 1. 1325-1350℃の間でδフェライトが粒界に晶出すること、特に1340℃以上では広くδフェライトが晶出することが明らかになった。 2. 400℃ならびに475℃時効に伴うδ相の効果挙動評価に着手し、時効と共に硬化することを確認した。 3. 高温水中SCC試験を実施し、試験結果から求めたδ/γ界面におけるき裂進展速度の相対値が0.0019倍であったことから、δフェライトにき裂の停留効果があることを確認した。しかしながら、非熱処理材(δフェライト相分布無し)では割れが一切認められなかったのに対し、粒界上にδフェライトが広く分布している組織の割れ発生感受性が大きくなっていることが確認されたため、その原因を今後調査していく必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
SUS316Lが比較的広い温度範囲で粒界上においてδ相が晶出することが明らかになり、当初想定したよりも比較的容易にδ相分布試料が作製できた。また、溶接試料の低温時効挙動評価については既に研究手法を確立済みであったため、研究スケジュールに沿って目的を達成できたと評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
δフェライトにき裂の停留効果があることを確認できた一方で、非熱処理材(δフェライト相分布無し)では割れが一切認められなかったのに対し、粒界上にδフェライトが広く分布している組織の割れ発生感受性が大きくなっていることが確認された。熱処理によりSCC発生感受性が増大する原因は不明であり、今後明らかにする必要がある。例えば、粒界上のミクロ硬さや、粒界への不純物偏析の有無の観点から調査を進める予定である。
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