2012 Fiscal Year Annual Research Report
20世紀前半の帝国日本における水稲品種技術の社会的影響の研究
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22780202
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
藤原 辰史 東京大学, 農学生命科学研究科, 講師 (00362400)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 科学技術の政治性 |
Research Abstract |
(1)古書店のカタログ、東京大学および京都大学の大学図書館での調査によって、効率的に資料を収集することができた。この資料を用いて、帝国日本の稲の品種改良に関する詳細なノートを地域ごと(東北、北海道、朝鮮半島、台湾、そのほかの占領地)作成することができた。 (2)「満洲国」の水稲品種改良や農事試験場の農業技術研究を課題とする研究者と意見交換をし、育種にかんする具体的な情報を収集することができた。 (3)仁部富之助や宮澤賢治などの、より地元に根差した水稲品種にかかわる史料を読み込むことによって、民衆レベルでの品種の普及のダイナミズムの一端を知ることができた。 (4)なお、副産物として、作家の夢野久作の息子である杉山龍丸(インドのグリーンファーザーと呼ばれた運動家)について調査を進めることができた。彼の足跡を追うことで、磯永吉が開発した蓬莱米が戦後、インドでも普及したことを知り、その背景を考察することができた。また、杉山と磯の交友関係についてもより深く知ることができた。 以上の研究に基づき、当初の予定通り、20世紀前半の稲の育種事業から戦後の緑の革命へのつながりを描いた『稲の大東亜共栄圏――帝国日本の<緑の革命>』を吉川弘文館より上梓することができ、書評や紹介記事などの多くの反応を得た。なお、秋田や岩手、韓国への出張は、京都大学および東京大学での資料収集および事実確認が思った以上に進展したため、今回は取りやめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通り、本年度において、無事に『稲の大東亜共栄圏』を上梓することができた。「順調に進展している」という評価は、おおむね、この達成ゆえに下している。 理由としては、科研費を使用しての、古書店、東京大学・京都大学の図書館などでの資料収集が思った以上にはかどったこと(東北や韓国への出張の手間がはぶけたこと)。さらには、情報収集に際して、隣接諸分野の専門家のネットワークを利用できたこと。また、これまでの年度の研究の蓄積があったことが挙げられる。
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Strategy for Future Research Activity |
最大の目標であった研究書の公刊を終えたので、今後は、執筆過程で生じた様々な課題をピックアップし、整理をしたい。 本の書評のなかで、近代品種を受け入れた農民の側の反応をもう少し丁寧に書くべきだ、というものがあった。これについては、三年間の研究では大きく踏めこめなかった点だが、最後の一年間でなんとかその糸口を探りたい。そのためには、これまで以上に資料収集を各地で行う必要があるだろうし、聞き取り調査や農業試験場の資料なども探索することも考えなければならない。
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Research Products
(1 results)