2010 Fiscal Year Annual Research Report
ナチ・ドイツの社会秩序形成に関する研究―航空機産業での「労働動員」を中心に―
Project/Area Number |
22820019
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
増田 好純 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特任助教 (40586583)
|
Keywords | ナチズム / 労働動員 / 強制収容所 / ドイツ航空機産業 / 総力戦 |
Research Abstract |
本年度は、政府・軍需当局-航空機製造企業-自治体・警察が複合的に展開した「労働動員」を政策レベルで解明することに取り組んだ。ドイツ連邦文書館をはじめとする政府・自治体・企業文書館での史料調査は、改修工事のために利用が制限された一部施設を除いて、概ね実施計画通りに進捗し、次のような成果を得ることができた。 軍需省・航空省の労働動員に関する史料分析からは、ドイツ戦争経済における航空機産業の非常に高度な位置づけが明らかとなった。企業文書の分析では、各航空機製造企業がこうした政府方針を積極的に利用し、生産工程の簡略化・合理化を推進しつつ代替労働力を導入することでドイツ人男性不足に対処しようとしたこと、その際、どこに労働力源(ドイツ人女性、西欧系・東欧系外国人など)を求めるかによって企業ごとの対応に多様性が見られたこと、そしてドイツ人に対しては福利厚生の充実に努める一方で外国人のそれは名目的なものであり、逆に監視・行動の制限を強めるなど、実質的にナチズムの求める階層化措置を導入したこと、が浮き彫りとなった。自治体・警察・検閲当局の史料からは、これら自治体・保安当局が急激に増加した外国人の動向、とくに体制批判とドイツ人との交流に神経をとがらせ、ドイツ社会の階層制秩序維持を目指しながらも、労働現場における様々な接触(敵対から援助まで)を阻止するには至らなかったことが見えてきた。 上記のような本年度の取り組みから明らかになったのは、労働動員の政策レベルでは当局と各航空機企業が労働力源を「共同体異分子」に求めながらも、彼らの「ナチ民族共同体」からの分離を強化・規範化しようとしたことである。これは、ナチ体制下の労働動員政策が、全ての要素を包摂・結集すべき「総力戦」とは相容れない性格のものであったことを意味しており、本研究課題をさらに進めていく上で極めて示唆に富む分析結果を得たといえる。
|