2010 Fiscal Year Annual Research Report
ナショナル・アイデンティティと日本近代-坂口安吾を中心に-
Project/Area Number |
22820062
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
山根 龍一 日本大学, 商学部, 助教 (40584909)
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Keywords | ナショナリズム / 主体 |
Research Abstract |
本年度は、「研究実施計画」に記載した(1)(3)(4)を実施し、具体的には以下の成果があった。 1、東洋大学在籍時代(1926~1930)に安吾が学んだ哲学・宗教・倫理学関係資料を調査する過程で、『マルキシズムと宗教』(大鳳閣書房、1930)等を入手し、「マルクス主義と宗教の思想的相克」という同時代的な問題が見えてきた。 2、1920~30年代の前衛芸術資料を調査する過程で、(1)安吾に影響を与えた可能性が高いのは、前衛芸術団体「マヴォ」のドイツ・ロシア経由の前衛芸術理論よりも、高橋新吉・辻潤らによる東洋思想と結合したダダイズム・アナーキズム芸術理論であること、(2)詩誌『白山詩人』(東洋大学詩人協会、1926~1929)を調査したこと等により、当時の東洋大近辺には「白山・南天堂」文化圏とも言い得る知的コミュニティが存在していたこと、が具体的に確認できた。 3、平成22年9月19日、坂口安吾研究会を介して新潟市新津美術館を訪問、遺品資料の調査を行った。何点かの貴重な書き込みを電子データ化できたと共に、職員の方、安吾の令息・坂口綱男氏との人的ネットワークを構築できた。 以上の研究成果は、「ネーションと個別的〈主体〉との関係の仕方の考察」という本研究の目的に照らし、以下の点で重要である。第一に、20世紀を支配した思想パラダイムであるマルクス主義の実態を多角的に考えることが可能になった点。第二に、マルクス主義に対抗(または代替)する思想大系として、仏教を中心とした東洋思想ないしそれと結び付いたダダイズム・アナーキズム理論が、特定地域を拠点とする人々の間にジャンル横断的な形で根強く存在していたことを明らかにした点。第三に、安吾の蔵書整理(データベース化)を共同で行う端緒が開けた点、また必要な時に必要な手続きをとって遺品資料にアクセスする土台が整った点。(なお、1、2の資料と東洋大学時代の仏教関係論文を用い、小説「黒谷村」(1931)との関係を扱った学会発表および活字論文発表を、平成23年度中に行う予定。)
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