2011 Fiscal Year Annual Research Report
ナショナル・アイデンティティと日本近代―坂口安吾を中心に―
Project/Area Number |
22820062
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
山根 龍一 日本大学, 商学部, 助教 (40584909)
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Keywords | ナショナリズム / 主体 |
Research Abstract |
本年度は、主として「研究実施計画」に記載した(1)(3)に関し、具体的には以下の成果があった。 1、横手一彦氏、山本武利氏らの業績を参照し、被占領下の言語空間に関する基礎知識と今日的な問題規制を養うことができた。具体的には、『被占領下の文学に関する基礎的研究(論考編)』(横手・1996)、『占領期メディア分析』(山本・1996)、『占領期文化をひらく』(山本・2006)、『占領期雑誌資料大系』(大衆文化編全五冊・2008~2009、文学編全五冊・2009~2010)などを購入し、精査することで、敗戦直後に特有の問題(<連続>と<断絶>)を実証的に把握することができた。戦前・戦中の内務省による検閲から敗戦直後のGHQ/SCAPによる検閲への移行、これが検閲制度を仲立ちにした<連続>面であるとすれば、<断絶>面とは、敗戦直後の検閲が"外国の軍隊"によって行われたそれであるという点にほかならない。2、1の成果をもとに、アメリカという他者によって与えられた「言論の自由」と「検閲(言論の監視・束縛)」という二重基準の中で、言葉によるいかなる<主体>構築が可能かという問いを立てた時、坂口安吾とも関わりの深い文学者・石川淳の敗戦直後の小説作品が、喫緊の論究対象として浮上してきた。 以上の研究成果は、「ネーションと個別的<主体>との関係の仕方の考察」という本研究の目的に照らし、以下の点で重要である。第一に、戦前・戦中と敗戦直後とを、検閲<主体>の移行に伴う<連続>と<断絶>の角度から複眼的にとらえる視座を養うことができた点。第二に、キリスト教(旧・新訳聖書)と戦後風俗(「闇市」や「浮浪児」など)とを巧みに交錯させた石川淳の小説世界を論究対象として見定めることで、敗戦直後の歴史的社会的状況下におけるナショナル・アイデンティティ形成の問題を、言語表現上の問題として具体的に考察する端緒が開けた点。(なお、石川淳の敗戦後の代表作「焼跡のイエス」(1946)をめぐる論考を平成24年度中に発表する予定。)
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