2022 Fiscal Year Annual Research Report
ラジカルの拡散が活性化させる星間塵表面での分子進化:複雑有機分子生成の鍵
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22H00159
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
渡部 直樹 北海道大学, 低温科学研究所, 教授 (50271531)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
柘植 雅士 北海道大学, 低温科学研究所, 助教 (60454211)
Sameera W.M.C. 北海道大学, 低温科学研究所, 外国人客員研究員 (90791278)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | 星間塵 / 分子進化 / ラジカル / 表面拡散 |
Outline of Annual Research Achievements |
真空槽中に擬似的な星間塵表面(アモルファス氷)を作製し,そこに紫外線を照射しOHラジカルを作製した。氷表面の微量なOHラジカルを光刺激脱離-共鳴多光子イオン化法を用いて検出した。OH検出量は氷の温度に依存しており,その温度依存性からOHの氷表面拡散の活性化エネルギーを世界で初め導き出した。得られた結果を分子雲環境に適用すると,氷星間塵表面全体をOHラジカルが動き回り反応を誘起する,つまり分子進化が活性化する温度領域は,およそ36 Kであることが分かった。
量子化学計算の手法により,星間塵表面に存在度が高いと思われるラジカル種(OH,HCO, CH3, CH3O)と氷表面の結合エネルギーを導出した。結合エネルギーは,同じ化学種であっても氷表面の吸着サイトによって大きく異なり,氷表面における多様な振る舞いの一因になり得ることが分かった。星間塵表面で生じていると思われるOCS + HおよびPH3 + D反応の活性化エネルギーについても,氷表面では気相反応とは異なる値が得られ,氷に緩く結合した分子の反応であっても,氷表面の影響は無視できないことが分かった。
独自に開発したCs+イオンピックアップ法を用い,氷表面におけるCH3OH+OH反応の実験を行った。反応生成物として,CH3OおよびCH2OHが生成することが分かった。また,2つの生成物に対応した氷表面反応の活性化エネルギーを量子化学計算で求めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していた氷表面におけるOHラジカルの拡散に関する活性化エネルギーを実験的に決定することに成功した。この成果は,すでに天文学の専門誌Astrophysical Journal Lettersで発表している。CH3OH+OH--> CH3O + H2O, CH2OH + H2Oの2つの氷表面反応に関する活性化エネルギーを量子化学計算で求め,今後行う当該反応実験と比較する事が可能になった。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度に,星間塵表面にもっとも存在度が高いと思われるOHラジカルの振る舞いを明らかにすることができたので,令和5年度からは炭素(C)原子や硫黄(S)原子およびそれらを含むラジカルの表面拡散や反応についての研究を遂行する。氷表面のこれらの化学種に対してPSD-REMPI法,およびCs+イオンピックアップ法でアプローチし,最適な実験手法を調べることから始める。
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Research Products
(22 results)