2022 Fiscal Year Annual Research Report
Elucidating the dynamics of the Copan dynasty in the Maya civilization through paleogenomics
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22H04928
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
中村 誠一 金沢大学, 古代文明・文化資源学研究所, 教授 (10261249)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中込 滋樹 金沢大学, 古代文明・文化資源学研究所, 客員准教授 (40625208)
市川 彰 名古屋大学, 人文学研究科, 共同研究員 (90721564)
伊藤 伸幸 名古屋大学, 人文学研究科, 助教 (40273205)
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Project Period (FY) |
2022-04-27 – 2027-03-31
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Keywords | コパンのマヤ遺跡 / マヤ文明 / パレオゲノミクス / コパン王朝 / ティカル国立公園 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、マヤ文明研究において世界で初めてとなる本格的なパレオゲノミクス研究の基盤を築いた1年であった。研究代表者は3回にわたり現地へ渡航し、過去40年間にわたる現地調査において発掘・収集した数百点に及ぶ埋葬人骨一次資料のうち、合計92サンプルを日本のラボへ移送した。本年度は選定サンプルとして、これまでの研究によりDNAの残存率が比較的高い側頭骨錐体部に限定した。断片状のサンプルも多かったため、収集したサンプルが側頭骨錐体部であることを確認する目的でチェックを行った結果、日本のラボへ運ばれたサンプルの約72%が該当部位であった。 一方、本年度は金沢大学の考古科学実験室内に分子生物学実験の自動前処理装置であるベックマンコールター社のBiomek i5を設置した。自動前処理装置の導入によって、人が手動で長い時間をかけて実験をしていた工程を自動化できるため、手動での実験よりもはるかに迅速かつ正確に実験ができるようになる。この前処理装置をパレオゲノミクス研究に応用し、コパン遺跡出土人骨のパレオゲノミクス研究を加速させるための準備を進めてきた。Biomek i5にパレオゲノム解析専用のDNA自動抽出プロトコルと次世代シーケンサー用のDNAライブラリ作成プロトコルを実装し、1日で80検体のDNA抽出・DNAライブラリ作成が可能になった。古代ゲノムデータ取得のハイスループット化に成功したので、今後はサンプリングしたコパン遺跡出土人骨から多検体のゲノムデータの取得を順次進めていく。 ゲノムデータ取得と合わせて放射性炭素年代測定のための骨コラーゲン抽出も実施し、保存状態の良好な骨コラーゲンの抽出にも成功している。コパン遺跡から得られる多くの個体のゲノム・年代・形態・同位体・考古学データを統合的に解析することで、出土人骨の遺伝的な繋がりについて多角的に評価し王朝のダイナミクスに迫っていきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
大型機材の設置に時間を要したが、上述した自動化ロボットの設置により、今後、数多くの検体が人的コンタミネーションのリスクを避けつつ、一度に分析できる体制が整った。また、既に予備解析として処理していた7個体のゲノムデータに関しては、集団遺伝学解析が進んだ。具体的には、古人骨資料においてゲノム抽出によって得られるDNA量が微量であるためにゲノム全体が薄読みの状態になりやすい欠点を解決するため、全ゲノムimputation(観察されなかった遺伝子型を参照パネルのデータをもとに予測し、実際に得られたデータ以上のデータを得ることができる手法)をコパンのゲノムデータに適用し、集団遺伝学解析を行なっていくためのパイプラインを構築している。 他方、海外資料のパレオゲノミクス研究を進めるうえで重要なのは、現地のステークホルダーの理解・支援であるが、ホンジュラスの世界遺産「コパンのマヤ遺跡」を管轄し、国内のあらゆる文化財の調査研究を担当する国立人類学歴史学研究所の所長や調査研究部門担当の副所長が、今年度来日し、金沢大学でパレオゲノミクス研究のラボを視察し我々と意見交換を行った。新たな研究に対するこういった現地側の信頼醸成プロセスも経て、上述したように、現地政府からの許可取得や現地から日本のラボへの検体の移送も順調に進展している。 一方、問題点がないわけではない。研究分担者二人が担当するエルサルバドル諸遺跡出土の人骨サンプルの分析許可取得や日本への持ち出しに関して、黄信号が灯っている。このため、本研究の2年度目以降、地道な交渉と調整が必要とされている。半面、研究分担者の一人が1990年代に発掘したグアテマラのカミナルフユ遺跡からの出土人骨に関しては、現地の保管場所が特定され今後の分析に期待が持てる。 以上の諸点を総合的に勘案すると、研究初年度終了時点における進捗状況は、おおむね順調であるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、王墓出土の古人骨を含む数百点の人骨から大量のゲノム情報を抽出・解析することを目指し、マヤ文明の中心的都市の一つであったコパンにおけるマヤ王朝創始前の先住民の遺伝的起源、マヤ王朝の起源、ティカルを始めとする他のマヤ王家との関係や系譜、王国崩壊の要因など、従来の考古学的な研究では仮説にとどまっていた諸相に切り込み、コパン王朝のダイナミクスを復元することを目指す研究である。 初年度は、コパン遺跡の中心部で研究代表者が発掘・収集した人骨資料に焦点をあて、92点の資料の選定や日本のラボへの移送を行った。2年度目以降の研究の推進方策としては、まず研究代表者の一次資料であり、1980年代から90年代に、コパンの周縁地域にあたるラ・エントラーダ地域の諸遺跡で発掘・収集された数十点の人骨資料からパレオゲノム分析用の資料を採取する。この資料は、コパンにおけるマヤ王朝創始前の先住民や王国最盛期の周縁地域の居住民の遺伝的起源を解明するためにエルサルバドル諸遺跡の資料と並んで必要不可欠な資料である。次に、碑文の解読や考古学的な資料のつながりから、コパン王朝の起源地と有力視されているグアテマラのティカル遺跡から、1980年代のティカルナショナルプロジェクト(PRONAT)により発掘された人骨資料及び研究分担者が1990年代にカミナルフユ遺跡で発掘した人骨資料を、本研究のパレオゲノム解析にかける許可をグアテマラ政府から取得し、その一部を日本のラボへ移送する計画である。 一方、コパン遺跡の7号神殿背後の地区の広域発掘や11号神殿内部の埋蔵建造物の発掘調査を2年度目後半の11月から3月の乾季にかけて集中的に行い、埋葬されている大量の生贄人骨(散乱骨)の回収や、古典期前期の王家の墓ないしはエリート墓の発見を目指す。エルサルバドルの人骨サンプルの分析許可取得に関しては、今後も粘り強く交渉を継続する。
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Remarks |
「日本学術振興会 科学研究費補助金 基盤研究(S)22H04928 パレオゲノミクスによるマヤ文明コパン王朝のダイナミクス解明」の研究報告
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Research Products
(27 results)