2023 Fiscal Year Research-status Report
近代合理性に対置される多元的合理性と倫理性に関する理論比較研究
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22K00016
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Research Institution | Hokkai School of Commerce |
Principal Investigator |
見附 陽介 北海商科大学, 商学部, 准教授 (10584360)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 一元性 / 多元性 / 一望性 / 複合性 / アドホック / 合理性 / 市場 / 近代化 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度には、本研究課題に即し、従来の合理性の概念に前提される一元性とそこに構築される機械的な合成理念(社会の組み立て原理)の検討を行い、またそれとともにそこに対置される多元的合理性が取ると予想される相互規定的で複合的な合成の理念を検討した。具体的には、本年度に論文として刊行された「「老い」の社会的構成の理論 : 超高齢社会の社会学のために」の議論をさらに展開し、画一化により実現される機能的効率性とは異なる効率性概念の可能性に関する検討を行った。 従来の合理性概念が依拠する近代化は、B. ラトゥールの述べる「純化」のプロセスとして捉えることが可能である。それは本研究課題の視野に即して言い換えれば、一元性(あるいは一望性)を確立するためにネットワーク、そしてそこに生じる相互規定性を切断し、部分化されたものを一義性を与える形で再度組み立てるプロセスとして考えられる。2023年度の研究では、これに対置される原理として、一望的な計画による管理の外に立つアドホックの原理を取り上げ、その可能性と限界を検討した。これは一般的にはポストモダニティに関する研究において捉えられる諸課題であるが、他方でそれを合理性概念に高める可能性の研究は本研究独自のものであり、固有の視野の確立にまずは取り組んだ。 アドホシズムとある種の合理性概念が両立しうるとすれば、それはアドホックな取り組みと全体性の間に有機的な相互規定が存在する場合と考えることができる。これは、進化論が関心を寄せてきた原理と近く、そしてそれを制度的に構築しようとすれば市場のメカニズムが当然挙げられる。しかるにその市場のメカニズムが有機的全体性を持たない状況がある。本研究では、これは市場と資本主義の関係、もっと言えば市場に対する資本主義による占有が関係しているのではないかと考え、これを2024年度に継続的に検討することになる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
合理性概念の多角的な検討や社会制度の可能性の検討など、研究課題に対する研究プロセス自体は概ね順調に進展している。ただ、成果の刊行に若干の遅れが認められる。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度は、アドホシズムと有機的全体性との相互規定的な連携の一つの仕組みとして市場に関する検討を行う。ただし、市場が今日必ずしも上記の連携を実現せず、またそれと関連して非道徳的な帰結を生み出す側面が見られるため、2024年度は、この市場に固有のメカニズムと道徳性との関係に関する研究を行う。ただし、その際には、市場の道徳性だけでなく、道徳性あるいは倫理性の理念のうちにある近代性の原理に関する検討をも同時に行う必要があり、この点についてはアマルティア・センの「超越論的制度主義」に関する議論が一つの手掛かりになると想定している。
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Causes of Carryover |
購入資料(主に図書)が当該年度の研究を進めるうえで十分なものが集められたため、一定額を翌年度の研究費にあてることとした。2024年度からは、研究の後半部分としてここまでの市場と合理性に関する研究にさらに倫理性に関する研究も加わることとなり、研究資料等の購入に余裕を持たせ、研究の進捗に支障が生じないよう計画した。 繰り越した分については、不足することも予想される資料購入の費用に充てる。
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