2023 Fiscal Year Research-status Report
九州沖縄仏教史・真宗史に関する研究―布教ネットワークの分析と潜伏宗教の関係から―
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22K00085
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Research Institution | Otani University |
Principal Investigator |
福島 栄寿 大谷大学, 文学部, 教授 (20453293)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 『仲尾次政隆翁日誌』 / 浄土真宗 / 沖縄・琉球 / 真宗僧侶 / 第二次真宗法難事件 / 第三次真宗法難事件 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度の研究活動は以下の通り。主に第二次真宗法難事件(1853年)で流罪に遭った仲尾次政隆の史料研究に取組んだ。①共同研究会(オンライン)の実施:2022年度の現地調査で撮影した『仲尾次政隆翁日誌』の翻刻作業を共同研究会で断続的に開催(2023年6月28日・7月12日・7月26日・8月13日・8月30日・9月13日・9月27日・10月10日・11月23日・12月4日・2024年2月28日・3月1日・3月30日・4月21日、計14回)。解説と翻刻文は『大谷大学研究年報』第76号として2024年5月に掲載発行予定。②現地史料調査:2023年8月17日~19日に長崎県内浄土真宗のS寺院への史料調査及び、福岡県内での聞き取り調査を実施した。長崎県内S寺院の調査では、関連史料を発見するに至り、撮影を行った。また、福岡県内での聞き取り調査は、S寺院の関係者から史料についての聞き取りを行うことができた。③講演による研究成果の公開:研究協力者の長谷暢氏が、2023年11月に真宗大谷派鹿児島別院において「真宗禁制一五〇年に向けて」と題して、清原競秀『日々琉行之記』の真宗布教に使われた『蓮如上人御一代記聞書いろは歌』を取上げて門徒対象に講演。福島が本務校主催の同窓会講演会で「学び続ける~歴史学の場合」と題し、科研費の研究成果として第三次真宗法難事件を取上げ、琉球真宗布教史について講演。④共同研究会(対面)の実施:年間の研究活動内容の確認と課題抽出のために開催(2023年12月28日・29日)。研究協力者の知名定寛氏が「『仲尾次政隆翁日誌』に関する諸問題」、同じく川邉雄大氏が、「『仲尾次政隆翁日誌』について」、同じく長谷暢氏が「東本願寺沖縄別院における『仲尾次政隆翁日誌』の輪読活動を通して」の題で研究報告を実施。以上のように、地道で少しづつではあるが、研究実績を成果として生み出しつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の活動の進捗状況としては、概ね順調に取組めていると考えているが、現地史料調査について若干の遅れがあると考えている。具体的には以下のようである。現地史料調査は、2023年度までに当初予定の半分程度を実施することができた。具体的には、2022年度には仲尾次政隆の子孫宅への史料調査、2023年度には長崎県と福岡県への現地寺院調査や関係者への聞き取りを実施することができた。しかしながら、本研究の主要テーマの一つである九州地域の僧侶ネットワークと隠れキリシタンとの関係性について検討を進めていく上で重要となる咸宜園(大分県)や周辺地域の寺院への史料調査、加えて隠れキリシタンと関係のあった寺院への史料調査と聞き取りが未実施である。この点は、次年度に向けての課題となる。また、第二次真宗法難事件(1853年)で流罪となった仲尾次政隆が暮した沖縄県座間味島での日々の生活記録が記されている『仲尾次政隆翁日誌』に基づく座間味島内現地調査も未実施である。こうした現地調査を行うことで、より厚みのある豊かな研究成果に結びつけられるものと考えている。 また2022年度に実施した現地調査で撮影した『仲尾次政隆翁配流日記』の翻刻作業が未着手である。本研究の活動は、地道な取り組みによって着実に研究成果を生み出しつつあると考えるが、翻刻作業には想定以上の時間を要している。2023年度に取組んだ『仲尾次政隆翁日誌』という一点の史料の翻刻検討作業にも、約1年間に亘る断続的な検討会の実施が必要であった。一足飛びには研究成果を出せないのが、本研究の実施現状であり、やや遅れていると判断する理由である。しかしながら、研究課題への取り組みは、停滞しているのではなく、常に研究代表者・研究協力者間において研究課題が共有され、それぞれにおいて研究を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策として、以下のように考えている。①2023年度までの本研究の取り組みで実施することが出来なかった現地史料調査等を実施すること。具体的には、咸宜園(大分県)に付設されている咸宜園教育研究センターへの史料調査の実施。仲尾次政隆の流罪地である沖縄県座間味島への現地調査の実施。長崎県・熊本県等の隠れキリシタン関係寺院への調査の実施。以上のような現地調査を行い、残存資料の確認、聞き取り調査を実施し、本研究課題の具体的検討へと繋げていく手立てとする。②2023年度に翻刻検討を進めてきた『仲尾次政隆翁日誌』の発行に向けて検討作業を継続する。③2022年度の資料調査で撮影を実施済みである『仲尾次政隆翁配流日記』の翻刻検討作業を実施する。調査での撮影により入手した資料類を、研究成果として関連する諸学界へと公開していきたい。現地調査が未実施で残されている主な原因として、日々の勤務先での業務を兼ねる各研究員のスケジュール調整が難しい点がある。この点については、研究代表者としてのリーダーシップを発揮し、各研究協力者への理解を得ることに努めたい。 また、資料についての共同検討会については、2023年度において、断続的にオンラインで開催したことで、研究会としてそれなりのノウハウを蓄積することができたと考えている。今後は、これまで蓄積できたノウハウを活かしながら、資料についての共同検討会のみならず、対面開催を中心としてきた共同研究会についても、オンライン開催を念頭に置いて取組んで行きたい。以上のような工夫を通して本研究の進捗に努め、具体的な研究成果へと結びつけていくことができると考えている。
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Causes of Carryover |
2023年度の重点的取り組みが収集史料の翻刻検討作業であったため、現地調査費に次年度使用が生じた。次年度は未実施の現地調査への支出が必要となる。次年度助成金の支出は主に以下3点を予定している。①現地調査に係わる支出:本研究の課題の要となる琉球真宗史の実態解明に不可欠な、仲尾次政隆の流刑地・座間味島への現地調査を、2024年度内に実施する。加えて本研究では、九州地域の僧侶のネットワークと隠れキリシタンとの関係性の解明が重要な検討課題である。この課題の検討を進める上で重要となる咸宜園(大分県)や周辺地域の寺院への史料調査、加えて隠れキリシタンと関係のあった寺院への調査と聞き取りを実施する。以上の現地調査への助成金の支出を予定している。 ②研究成果の公開に係わる支出:本研究では、主な研究成果の公開方法としての翻刻史料の刊行を予定しているため、その刊行に係わる印刷製本等の予算を見込んでいる。併せて、そうした研究成果としての刊行物を関連諸学界の関係者、及び関係諸機関へ謹呈送付するための予算を見込んでいる。 ③共同研究会(対面)の実施に係わる支出:オンラインでの研究会・検討会は並行して開催するが、年間に一度は、共同研究会を対面で開催し、研究員同士のコミュニケーションを図ることで、オンラインでの情報交換をよりスムーズに行えるような手立てとし、併せて、本研究の研究活動の進捗へと繋げていきたい。
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Research Products
(3 results)