2022 Fiscal Year Research-status Report
現代キリスト教における教義の実相:原理主義の教義と伝統的神学思想の総合的研究
Project/Area Number |
22K00089
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
加納 和寛 関西学院大学, 神学部, 教授 (00732893)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 聖霊論 / キリスト教 / 原理主義 / 福音派 / カール・バルト / シュライアマハー / トレルチ / リッチュル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、現代世界における極めて多様な様相を持つキリスト教の一面である教義中心主義と教義相対主義の相関もしくは相克の実態を解明することにより、キリスト教理解の新たな視座を開拓し、さらには複雑かつ多面的に展開されてきた現在のキリスト教教義について神学的・教義学的観点から将来的な方向性を予測しつつ新たな理解を提示することである。そのため当該年度は第一課題であるハルナックの「非教義的キリスト教」とボンヘッファーの「非宗教的キリスト教」を扱うことで、その基礎部分を解明することを目指したが、調査過程において本研究計画を遂行するために必要な、別途詳細に論じるべき課題を発見するに至った。すなわち現代のキリスト教教義において再注目されている「聖霊論」を根本から論じ直すことが、本研究の柱の一つとして不可欠であるとの認識を得た。聖霊論にも一定の重点を置かなければ、最終年度に着手予定である、教義相対主義と教義絶対主義の総合的観点を構築すること、すなわちシュライアマハー、ハルナック、ボンヘッファーの系譜すなわち学術的神学における教義理解とアーヴィングから現代福音派に至る教義中心主義の複雑な交錯状況に多角的な理解を展開することが難しくなるということである。このため現代のキリスト教の実相を複雑化させていると目される聖霊論自体の複雑性、殊に神・キリストの霊と聖霊との不分明性に着目し、これを教義学的に批判するべく、聖書の段階にまで遡及しつつ、シュライアマハー、カール・バルトにおける聖霊の不分明性の総合的な捉え直しを行った。その結果、聖霊論にはキリスト論以上の意見の相違や幅があり、それにもかかわらずキリスト論のような異端論争を呼び起こすことは少ないとの結論に至った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究は着実に進捗しているものの、計画通りとは言えない。理由は、初年度(2022年度)における基礎的研究において、最終年度にまとめるべき研究成果の柱の一つとして欠かせない課題を発見したからである。すなわち本研究は特に現代の経綸主義やホーリネス・ペンテコステ運動の隆盛を、伝統的神学の観点から再評価して両者を総合することにあるが、その基底には聖霊論の基礎的部分のメタ批判が重要ということである。したがってこの課題は当初の計画からまったく外れるものではない。むしろ研究計画全体に含まれていたが、研究開始後に、最も早く詳細に論じるべきものであると認識したものである。このため当初の計画において初年度に遂行予定であった課題をいったん中断し、新たな課題に取りかかった次第である。この新たな課題は初年度で一定の成果に至った。すなわち研究会発表と論文公表を実施したことにより、研究計画全体においては一定の実績を挙げることができていることになる。ただし当初掲げていた研究計画の第一段階そのものはやや遅れていると言わなければならない。しかし今回新たに取り組んだ課題、すなわち聖霊論に関する研究は、当初予定していた第一段階すなわちボンヘッファーとハルナックの比較研究にも大いに役立つものであり、研究計画全体を遅滞させるものではない。ハルナックにおいて後景に斥けられていた聖霊論は、ボンヘッファー、厳密にはその中間に位置するカール・バルトにおいて再び前景に押し出されたことが今回明らかになり、両者の対比の構造の一端がより明確になったからである。よって現在までの進捗状況は、当初の計画からすればやや遅れているものの、着実に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題は2年目において、まずボンヘッファーの「非宗教的キリスト教」とハルナックの「非教義的キリスト教」の比較考察に集中する。これまで両者の思想的関連性について言及されたことは極めて少ない一方で、人的交流については広く認められており、単なる状況証拠に基づく推測を超える考察が重要であると考えている。その焦点の一つは初年度において取りあげた聖霊論になると考えている。これは当初より第二段階として想定していた、同時代のアーヴィングおよびダービー、さらには古代・中世の経綸主義の基層にある聖霊論、とりわけフィオーレのヨアキムと結びつくことが予想される。次いでリッチュルやヴァイスの終末論理解との対比がなされることになるが、そこでも聖霊論の位置づけまたはその減衰が一つの焦点になると考えられる。ここで新たな課題となるのは経綸主義と聖霊論との位相であるが、当然ながら本研究計画の基軸の一つとして取り組む必要性があると思われる。ここまでの研究が羅列的あるいは錯綜気味になることがないよう注意を払わなければならない。これまではそれぞれの思想に通底している経綸主義への賛否がほぼ唯一の基軸であったが、そこに経綸主義と密接に関連する聖霊論をより強く意識することで、計画全体がより明確化すると思われる。最終的には学術的神学において教義が相対化されていったことと、原理主義において教義が絶対化されていったこととの対比が目されるが、これは経綸主義における対照性と同時に聖霊論における対照性でもあることが予想される。おそらくは厳密に言えばこれは研究計画の基軸が二つに増えたのではなく、基軸においてより注目する側面が明らかになったと言えるであろうが、このこと自体も課題の一つとして取り組むことになると考えている。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の影響が続いたため、学会出張費用等の支出が計画当初より少なかった。 第2年度は研究休暇により海外に滞在するため、支出の増大が見込まれる。
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