2022 Fiscal Year Research-status Report
古代教父におけるストア主義的自然学の受容に関わる思想史的研究
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22K00099
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
津田 謙治 京都大学, 文学研究科, 准教授 (00532079)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | 教父学 / ストア主義 / 宗教哲学 / 古代キリスト教思想 / 夢 / 魂論 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は、事前に提出した研究計画に沿うかたちで、以下の三点に関して研究を進めた。 1、「研究資料の収集」・・・ 今年度は、円安・ユーロ高の影響と、COVID-19の感染拡大により、資料収集が極めて困難な状況にあったが、購入資料を絞り込むことと、図書館の相互利用等を利用することによって対応した。資料の絞り込みには、実物を何らかのかたちで確認することが必要となるため、ドイツのテュービンゲン大学とミュンヘン大学での資料収集を企画し、2023年度の予算を前倒し申請することで、2023年4月に入ってすぐに渡航できるように準備を進めた。 2、「前年度の研究・学会発表の公表」・・・ 前年度は、本研究と間接的に関わるユダヤ思想や、ユダヤ教と古代キリスト教の関係に焦点を当て、「二、三世紀の教父文献に見られる「ユダヤ人像」という主題の論考を『京都ユダヤ思想』にて公刊した。ヘレニズム的ユダヤ教はストア主義を積極的に取り込んだ議論を展開していたため、論文の執筆に並行して、本研究課題に関わる文献等を整理・調査した。 3、「研究・学会発表」・・・ 今年度は、神と世界との関わりを、世界に存在する人間の魂に神が夢を送ることによって関係するという観点から分析した。その際、特にヘレニズム的な影響を強く受けたユダヤ人フィロンにおいて、夢がストア主義的な分類に基づいて議論が行われている点を考察し、6月の西洋古典学会全国大会のフォーラムで発表した(「アレクサンドリアのフィロンにおける夢の位置付け」)。また、同じアレクサンドリアの教父オリゲネスが、同様にストア主義的な魂論に関連したかたちで夢のメカニズムを議論している箇所を分析し、9月の日本宗教学会にて発表を行った(「オリゲネスにおける夢の位置づけ」)。尚、前者については学内の紀要にて公刊した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度の研究計画においては、ストア主義における神と世界との関係性の分析が目的とされていたが、今回は神が世界や人間に送る「夢」そのものに焦点を当てつつ、西暦1世紀のヘレニズム的ユダヤ教、3世紀の東方キリスト教の双方で、ストア主義的な議論との類似性を見出すことができた。また、これに関連する議論について、国際共同研究の一つとして3月にはオーストリア・ザルツブルク大学のラファル・マタチェフスキ氏に西洋古典学連携共同研究会にて講演を行ってもらい、コメンテーターの一人として参加することができた。ただし、今年度に実施した研究の幾つかは、本来の予定では2024年度以降に実施する内容を先取りしており、その代わりに今年度に扱う予定であったストア主義そのものの分析が若干手薄になっている状況とも考えられる。研究課題全体の進捗が遅れているわけではないが、後者の分析を引き続き進めて行きたい。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は、既に2022年度に企画していた海外での資料収集を行い、不足していた資料を集めつつ、議論の分析を試みたい。特に、ストア主義とキリスト教の関係についての資料は、国内の大学では所蔵館が少ないため、海外の大学で集中的に調査を行いたいと考えている。また、その分析には恐らく時間を要するため、2022年度に行った分析に関連する研究を先に行い、夏頃の学会発表等ではそのような研究を優先して実施する可能性もある。尚、2022年度と同様、年度末の学内紀要にてオンライン上で公刊し、研究成果を広く公開する予定である。
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Causes of Carryover |
(理由) 当初は今年度3月に海外調査を予定していたため、前倒し分も含めて旅費として予算を使用するつもりであった。しかしながら、戦争その他の理由で航空券が予約しにくい状況が続き、出発が次年度4月にずれ込んだため、結果的にその分が次年度使用額として生じてしまった。 (使用計画) 前年度に予定していた海外調査の旅費として使用することを計画している。
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