2023 Fiscal Year Research-status Report
戦後日本における保守運動と神道の関係――葦津珍彦の思想を中心に
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22K00101
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
昆野 伸幸 神戸大学, 国際文化学研究科, 教授 (00374869)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 葦津珍彦 / 近代神道 / 保守運動 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究の2年目にあたる2023年度において、活字化に至った研究業績としては、以下の2点の成果を得た。 第一に、近代の日本において平田篤胤の神道・国学思想は多くの神職・神道思想家に大きな影響を与えてきたことを踏まえ、明治時代から昭和10年代にかけて、平田篤胤がどのように表象されてきたのか、その篤胤像の展開についてまとめた。一般的に篤胤は非常に宗教的な神道を説いたとされるものの、むしろ篤胤の神道思想における宗教性の不足、欠如を指摘する流れが明治後期から脈々と確認でき、本居宣長や平田篤胤の合理主義を批判する今泉定助の主張もその流れに位置づけることができる。近世国学者の思想を批判し、神道の本質に「神懸り」を見出した葦津珍彦は、今泉に多大な影響を受けていることが改めて確認できるし、篤胤を批判し、より宗教的な神道を提示する営みは、単に今泉―葦津という狭い関係性にとどまらず、明治後期からの長いスパンで検討する必要があることを示した。 第二に、1932年に成立した歴史学研究会の機関誌『歴史学研究』(1933年創刊)を対象に、誌面にあらわれる平泉澄批判や、吉田三郎による掲載論文などを分析することで、1930年代における歴史学界について検討し、分析概念としての〈皇国史観〉や同時代の資料用語としての「皇国史観」が立ち上げられる背景に注目した。当該期は、葦津がマルクス主義的な思想を捨て、民族運動に挺身していく画期にあたる。アカデミズムにおいてマルクス主義の影響をうけた社会経済史的研究が勢力を広げ、それと対抗する平泉澄の精神史が台頭する構図と似たような関係性のなかで、葦津の転回も考えることができるかもしれない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究の2年目においては、1年目からの課題である①葦津珍彦の著作目録の完成、②葦津が思想形成を遂げた戦前・戦中の言説の分析を引き継ぎつつ、③戦後の葦津の神道防衛論の検討を行った。 ①については、松田義男氏による「葦津珍彦著作目録」改訂版(2022年5月9日)の遺漏をチェックし、より詳細な著作目録をまとめつつある。現在、研究者のみならず葦津に関心のある一般の方も含めて、多くの人にとって活用しやすい発表媒体が何か検討しているところである。 ②については、2023年度に2件の論文に結実したように、葦津の思想形成や神道信仰の背景について、より広い視野から分析することができた。ただし、公表した論文には、葦津の思想・活動を十分に盛り込むことはできなかったため、葦津についての専論の投稿を予定している。 ③については、いまだ活字化に至っていないが、現在原稿を準備中である。 以上のような現状を踏まえて、やや遅れていると総括したが、今年度中に挽回できると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進は、①戦前・戦中の葦津の思想を踏まえて、敗戦後から1960年代までにおける彼の思想を検討する、②戦後の民族派の雑誌について、その全体像の輪郭を提示する、という2方向を軸にしていくことを予定している。 ①については、まず戦前・戦中の葦津の思想について、様々な論題を扱いつつも、それらの根底をなしている葦津の確固とした神道観・天皇観を中心に、早急にまとめて活字化する予定である。続けて、敗戦後の激変した思想状況の中で、いかに葦津が神道や天皇の意義を説き、保守しようとしたのかを分析する。とくに敗戦後、神社本庁が設立される過程で、葦津がいかなる影響を及ぼしたのか、神社本庁と葦津の関係を『神社新報』の記事から検討したい。このような作業を通じて、神社界のなかの葦津の位置づけを探るとともに、民族派の主宰する雑誌『新勢力』や雑誌『小日本』の記事も分析することで、1950~1960年代における葦津の多彩かつ広範な言論活動を浮き彫りにし、葦津が神社界にとどまらず、広く民族派にいかなる影響力を発揮したのかを見通したい。 ②については、戦後の葦津の言論活動を調査する作業から派生した研究である。代表的な総合雑誌である『中央公論』や『展望』等については、雑誌目次も編まれ、メディア分析も盛んである一方、他方では保守の言論雑誌に関しては『諸君!』『正論』を除けば、ほとんど基礎的研究自体が手つかずといえる。『新勢力』『小日本』『日本の動き』『世界と日本』『祖国と青年』といった様々な民族派のミニコミ誌に至っては学術的な検討対象になることさえ稀である。このような現状を踏まえ、全国の大学附属図書館や関連施設における雑誌の所蔵状況を確認し、諸団体や雑誌の付置状況について見通しを示したい。
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Causes of Carryover |
予算使用の締切間際に、古書店より購入を予定していた重要な資料があったものの、古書店側の事情で(当該資料が行方不明)、購入できなかったため、その分の予算額が浮いたため。次年度に新刊の学術書の購入に充てる予定である。
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Research Products
(3 results)