2023 Fiscal Year Research-status Report
古典的ハリウッド映画論から見た戦前子ども向け物語マンガにおけるコマ割り研究
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22K00137
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Research Institution | Shokei University |
Principal Investigator |
畠山 真一 尚絅大学, 現代文化学部, 教授 (20361587)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
三浦 知志 尚絅大学, 現代文化学部, 准教授 (20583628)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 視聴覚マンガ / トーキーアニメーション / 語り |
Outline of Annual Research Achievements |
戦前子ども向け日本物語マンガは,1930年付近に開始されると考えられるが,それ以前の子ども向け娯楽として最も重要なコンテンツは「映画」であった。2023年度は,2022年度からの調査をもとに,戦前子ども向け日本物語マンガのはじまりの作品の一つである『のらくろ』の成立には,当時日本で公開されはじめたトーキー・アニメーションが決定的に関与している可能性を提示した研究を「トーキー漫画としての『のらくろ』」として公刊論文とした。 本論文では,子どもの娯楽レパートリーをめぐる社会情勢およびマンガ表現とトーキーアニメーションの翻訳可能性の観点から分析をおこなった。 前者については,1910年代後半からの映画・映画館が子どもにとって害悪な要素を持っているとみなされていたことを当時の雑誌・新聞等から明らかにし,貞包 (2021)『サブカルチャーを消費する』で提示されていた「こづかい」による消費行動の制約といった観点から,当時流行していたトーキー・アニメーション作品と同等のコンテンツとして『のらくろ』が受容されていたという観点を提示した。また,『のらくろ』出版以前である1930年には当時最も流行していたトーキーアニメーションである『ミッキーマウス』シリーズが新聞掲載マンガとして出版されていたことを指摘し,トーキーアニメーションの代替物としてマンガが利用可能であったことを述べた。 後者については,Exner(2022)の Comics and the origin of Mangaで提示されているaudiovisual comicsという概念を利用して,マンガとトーキーアニメーションの翻訳可能性について議論した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2年目である2023年度は,本来であれば戦前子ども向け物語マンガの作品として『スピード太郎』と『のらくろ』の両方に関わる分析を提示する予定であったが,『スピード太郎』については議論を提示することができなかった。これは『スピード太郎』および『のらくろ』が出版された1931年前後の子どもの娯楽にかかわる社会状況の調査に時間を要してしまったことによる。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年を予定している2024年度は,『スピード太郎』を「映画学」の観点から分析することにとりくみたい。日本における映画の状況でいえば,『スピード太郎』が出版された1930年末はトーキー映画のブームが到来しており,映画がサイレントからトーキーへと転換するとともに古典的ハリウッド映画の様式を備えた日本映画がチャンバラ映画として大量に制作されていた時代でもある。このような映画様式の転換と『スピード太郎』で採用された表現形式の関係について分析を提示したい。 当時の子どもと映画に関する状況については,ある程度の予備調査が終了しているため,本年度は,ボードウェル等の古典的ハリウッド映画分析で提示された理論的装置を用いて分析に取り組む予定である。
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Causes of Carryover |
校務等の理由で,出張をともなう文献調査が充分に実施できなかったことが,次年度使用額が生じた理由である。今年度は,校務の負担を減らすことで,国立国会図書館,神戸映画資料館などでの調査を実施する予定である。
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