2022 Fiscal Year Research-status Report
対話的・協働的芸術実践の美的価値についての基礎的研究
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22K00142
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
田中 均 大阪大学, 大学院人文学研究科(人文学専攻、芸術学専攻、日本学専攻), 准教授 (60510683)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 美的価値 / 共同主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は、ニック・リグルの共同主義的美的価値論の特徴と歴史的系譜について研究するために、リグルとサマンサ・マザーンと論文「シラーにおける自由と美的価値」 (2020/21年)における、フリードリヒ・シラー『人間の美的教育についての書簡』 (1795年)の解釈を取り上げて、その背景と妥当性について検討した。 リグルの「共同主義」は、「個性」、「美的自由」、「美的共同性」という三つの「美的な良さ」によって特徴付けられるが、マザーン/リグルは、シラーの議論をリグルの「共同主義」的美的価値論の先駆者とみなしており、シラー自身が「個性」、「美的自由」、「美的共同性」を重視する美的価値論を展開していると解釈している。この解釈で重要な役割を果たしているのが、シラーにおける「美」の概念を「スタイル」として理解するという提案である。マザーン/リグルのいう「スタイル」とは、芸術作品の様式というよりも、生活のなかでの個性の表現という意味で、「ライフスタイル」と理解できる。たしかに『美的教育書簡』には「美的自由」と「美的共同性」についての理論を見いだすことができるが、「個性」を重視する議論を見いだすことは困難である。それゆえに、シラーにとっての「美的自由」や「美的共同性」と、マザーン/リグルにとってのそれも異なると言わざるをえない。シラーは「ライフスタイル」の美学を展開していると言えるが、それはマザーン/リグルが考えるような個性的な「ライフスタイル」の美学ではない。 マザーン/リグルが考える「ライフスタイル」が絶えず更新される個性であるのに対して、シラーの議論に見いだされる「ライフスタイル」とは、むしろ普遍的な美の規範に照らして個性を乗り越えるなかで形作られる生のあり方を指している。リグルが自らの美的価値論の先駆者をシラーに求めたことで、かえって個性についての彼の思想の独自性が際立つことになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は、特にリグルの共同主義的美的価値論に注目し、その特徴と歴史的系譜を解明することに取り組んだ。その成果は日本シェリング協会第31回研究大会で口頭発表し、協会誌『シェリング年報』に投稿した。当該論文は2023年7月に公刊予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、引き続きリグルの共同主義的美的価値論を中心として、アレクサンダー・ネハマスにおける「幸福の約束」としての美についての議論や、ドミニク・ロペスのネットワーク理論との比較検討を行い、美的実践に焦点を当てた美的価値論の可能性を探究するとともに、そうした美的価値論の歴史的系譜についても検討する。
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Causes of Carryover |
当該年度は、研究代表者の本務校を会場として開催された学会で口頭発表を行ったため、旅費が抑制された。また、当該年度より前に入手した資料を活用したため、物品費も抑制された。翌年度は次年度使用額を含めた助成金を主に資料収集や学会発表のために活用する予定である。
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