2022 Fiscal Year Research-status Report
傷つきやすさの創造性:障害者演劇と20世紀前衛演劇に関する理論的・実践的研究
Project/Area Number |
22K00145
|
Research Institution | Shizuoka University of Art and Culture |
Principal Investigator |
井上 由里子 静岡文化芸術大学, 文化政策学部, 准教授 (70601037)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
|
Keywords | 暗黒舞踏 / 中嶋夏 / コミュニティ・ダンス / 傷つきやすさ / 21世紀演劇 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、障害者演劇と20世紀前衛演劇の交叉について理論と実践を往還しながら考察し、「傷つきやすさ(vulnerability)」の創造性を明らかにすることである。本年度の成果は以下のとおりである。 1)1993年から知的障害者と健常者がともに踊るコミュニティ・ダンス〈心と身体の学級〉を主宰する舞踏家中嶋夏を中心に研究を進めた。文献調査をとおして、舞踏においては、身体に内在化された社会的秩序の除去が目指されていること、障害のある身体は規律化から免れることが「できる」という意味で理想の身体とみなされていることを示した。他方、現地調査(〈心と身体の学級〉の参与観察、勤務校でのワークショップ開催、舞踏クラス参加、等)からは、中嶋の〈心と身体の学級〉と舞踏クラスの間にはいくつか違いがあるものの、基本的技法は通底することが明らかになった。この成果をまとめ、日本演劇学会の分科会である近現代演劇研究会(2023年3月、大阪大学)において口頭発表を行った。 2)国際シンポジウム「翻訳家の共同体」(2022年9月、アンスティチュ・フランセ・ベルリン)に参加し、フランスの演劇人ヴァレール・ノヴァリナの翻訳論について口頭発表を行った。ノヴァリナは本研究の主な対象ではないが、「傷つきやすさ」の観点から20世紀演劇と障害の関係を探る本研究の出発点にもなった重要な演劇人である。 3)日本と西欧の現代演劇に関する調査をもとに、2022年10月から2023年3月にかけて月刊誌『ふらんす』に6本のエッセーを連載し、研究成果を社会に還元した。日本ではほどんど知られていない、障害者演劇やドキュメンタリー演劇、tgSTAN、ティアゴ・ロドリゲスらの民主的な創作方法をとりあげ、日本の現代演劇との比較考察を試みた。本研究との関わりでは、21世紀の演劇における「傷つきやすさ」の重要性を指摘したことが大きな収穫である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は「傷つきやすさ」をめぐる文献調査を中心に行う予定をしていたが、〈心と身体の学級〉に関する現地調査を進めることができた。「傷つきやすさ」の概念整理は当初の見込みほど進まなかったが、研究成果の発表は順調に行っており、研究全体の進捗に支障はないと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後も〈心と身体の学級〉の参与観察を継続するとともに、中嶋夏の舞踏論と技法の位置づけ、「中動態」概念を援用した理論的考察を試み、その成果を学会で発表することを目指す。それと並行して「傷つきやすさ」の概念整理を行いたい。
|
Causes of Carryover |
研究費を効率的に使用したため小額の残額が生じた。次年度の物品費として使用する。
|
Research Products
(10 results)