2023 Fiscal Year Research-status Report
日本古代の音楽・芸能を社会的脈絡から探る:日中比較と儀礼研究の視点から
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22K00146
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Research Institution | Toho Gakuen School of Music |
Principal Investigator |
平間 充子 (平間充子) 桐朋学園大学, 音楽学部, 非常勤講師 (90600495)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 日本音楽史 / 日本古代史 / 儀礼 / 雅楽寮 / 楽所 / 船楽 / 内教坊 / 雅楽 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は予定を変更し、儀礼における奏楽の一形態としての船楽について、平安時代の絵画資料と文献資料から数例を取り上げて先行研究を参照しつつ検証した。「駒競行幸絵巻」(13世紀末~14世紀初め成立)に見えるそれはよく知られているが、現行の雅楽にも用いられる左右の楽の概念、つまり左の位置‐赤系統の装束‐竜の意匠(唐楽)に対する、右の位置‐青系統の装束‐鳳凰すなわち鳥の意匠(高麗楽)、に通じており、興味深い。両方の船に楽人を乗せる「駒競行幸絵巻」に対し、「年中行事絵巻」(12世紀後半成立)には舞人を運ぶのみで音楽を発しない竜頭船が描かれているが、この編成は東三条院で行われた藤原頼長の大臣大饗に関する『台記』仁平2年正月26日条の記載と一致する。同書同日条からは、衛府官人を兼職する所謂楽所の楽人が、雅楽寮の官人に率いられることによって雅楽寮としての奏楽を担う実態も窺われ、雅楽寮・近衛府・楽所といった組織が実際の奏楽場面においてどのように機能していたのかを端的に示す好例と言えるだろう。遡って長和2年9月16日、藤原道長が土御門第で催した競馬行幸では、儀礼中と儀礼後の「上達部の御遊び」でも船楽が用いられた。後者では殿上と同じ音楽を船上でも演奏しながら寝殿前庭に漕ぎ着け、最後には上陸して庭に座す楽人と殿上人達との合奏に至る。距離を隔てて響きわたる音楽が徐々に近づきやがて一つになる、空間と時間とを絶妙に用いた演出は船楽ならでは、その場の一体感をより際立たせたと推察される。 また、中国に倣い設立された女性のみの奏楽機関である日本の内教坊について、レパートリー中の舞楽《玉樹後庭花》を中心に考察を行った。平安初期における内教坊は中国のそれを強く意識した奏楽機関であるが、同曲が中国では房中楽とされていたことに注目し、天皇の私的な側面を強調する作用を持っていた可能性を指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
船楽についての事例が予想より多く、その整理に時間がかかってしまったため。他には学会運営や体調不良により研究時間が思うように確保できなかったため。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は船楽を例に儀礼の奏楽に見られる私的な要素について考察したので、次年度は儀礼そのものに私的な要素が強い例として算賀と朝覲行幸における奏楽を検証したい。天皇、上皇、皇太后といった当時の王権の頂点をなす人々を対象とする、またそれらの人々が主催する算賀と朝覲行幸の儀式次第や出席者、そして奏楽の実態を比較検討し、朝廷内の秩序がどのように儀礼や奏楽に反映されているのかについて考察する。算賀とは、40歳からはじめて以後10年ごとに行われる高齢の祝賀であり、朝覲とは一般に天皇が太上天皇または皇太后の宮に拝謁することであるが、特に年頭のそれを指す。朝覲行幸の意義として、天皇家における家父長制的父母子秩序を顕現化し、確認するため、との指摘が既に服藤早苗によりなされている。制度上では上皇の優位に立つ天皇が、あえて父子の秩序を重んじ親、あるいは親に擬せられた関係にある上皇・皇太后・太皇太后を自ら訪問し、かつそれを貴族社会の規範として示す、単なる親子対面を超えた政治的重要性を持つ公的な行事であった。朝覲行幸には奏楽の規定がないにも関わらずかなり初期の事例から音楽の演奏が見られ、その矛盾が意味するものについても考察を加える。最終的に、研究代表者が今まで明らかにしてきた君臣関係の表象たる儀礼における奏楽との比較、さらに後にさかんとなる御遊との関連生についても論じたい。 また、中国の宮廷における女性演奏家の活動と社会的な地位について中国の文献から検証を行い、日本の朝廷と比較して日中のジェンダー観の差異についても考察を深める。 8th Symposium of the ICTMD Study Group on Musics of East Asia (MEA)(確定)、 東洋音楽学会第75回大会、48th ICTMD World Conference 等にて研究発表予定。
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Causes of Carryover |
旅費では個人で獲得したクーポン券などを利用して若干の費用を節減できたため。 次年度も国際学会に出席予定があり、予想される円安に備えて使用予定。
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Research Products
(5 results)