2023 Fiscal Year Research-status Report
シンクロトロン光による銅青色陶磁器顔料開発と初期染付の技術史研究
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22K00205
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Research Institution | Joetsu University of Education |
Principal Investigator |
兪 期天 上越教育大学, 大学院学校教育研究科, 講師 (10819262)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
太田 公典 公益財団法人科学技術交流財団(あいちシンクロトロン光センター、知の拠点重点研究プロジェクト統括部), あいちシンクロトロン光センター, 客員研究員 (40264709)
東 博純 公益財団法人科学技術交流財団(あいちシンクロトロン光センター、知の拠点重点研究プロジェクト統括部), あいちシンクロトロン光センター, 客員研究員 (30394399)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 銅顔料 / コバルトブルー / XAFS分析 / 線形フィッティング |
Outline of Annual Research Achievements |
2016、2017年に行われた太田公典の青山学院大学三上コレクション、大原美術館フーケコレクションの研究調査に参加し、これまでにシンクロトロン光による蛍光X線分析およびXAFS測定(X線吸収スペクトルを用いて化学状態を評価する方法)によって、コバルトブルー色の下絵付け陶片を分析したところ、コバルトブルー色でありながらコバルトを含まない陶片が複数あり、銅が多く含まれていることが分かった。現在の陶磁器において約1250度に達する焼成でコバルトブルー色に発色する顔料は、コバルト以外の存在は確認できていない。しかし、これまでの釉表面からの測定に対して、ビーム光が釉薬の奥深くまで到着していない可能性があるとの指摘を受け、陶片の釉断面における再測定を行なっている。その結果微小部蛍光X線分析装置(ブルカージャパン製:M4 TORNADO PLUS )により釉断面の分布計測を行ったところ、釉断面にCo, Cu, Fe, Mgなど層状になっていることが分かった。この中で、銅がどのような状態でコバルトブルーの発色にかかわっているかを明確にするため、銅の標準サンプル(Cu, CuO, Cu2O)のXAFS測定を行い、陶片の釉断面の銅の状態と線形フィッティングによる解析を行なった。そして釉断面を釉層表面部、中層部、下部の三つに分けて測定を行い、表面の近い部分から素地に近い部分まで位置を変えることで各場所や各層における銅の状態を推定することができた。また、釉層と素地層の境界を明確に特定するため合金を用いるなど工夫を行い、釉断面測定に対する研究を幅広く試した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
陶片の釉断面の銅の状態における蛍光マッピング測定範囲の中で、Coは中央に多くの量が集まり、右の方向にも存在している。Cuは右の中層に多く存在し中央のCo部分にかけても一定量が存在していることが分かった。同じ陶片の銅の状態をXAFS測定するため、Coがもっとも多い場所とCuがもっとも多い場所を特定、白いところはCuのみが多い場所を特定して銅の状態を測った。その方法として、銅の標準サンプル(Cu, CuO, Cu2O)のXAFS測定を行い、線形フィッティングによる解析で比較を行なう。その結果、釉層表面部のXAFSスペクトルは、CuOのスペクトルに近く、釉層中心部と釉下部はCu2Oの化学状態に近く多いことが分かった。釉層表面部にはCuO、中層部と下部にCu2Oであることから、蛍光マッピングにおいては中層にCuが多いことが確認されているので違和感のない結果であった。また、サンプル陶片の設置に関しては、釉層と素地層との境界を正確に測定するため、釉層表面部と素地、釉薬の境界部に合金を用いた測定を試した。ここで使った合金は、純金(Au)が90%、純銀(Ag)が10%の比率の、厚み0.05㎜の板状のものであり、層間の境界をより正確に表すことに効果を得た。 以上、釉層内の金属元素が層になって偏在していることから釉層の位置により銅成分の詳細や蛍光マッピングの分析を用いて金属元素のXAFS測定場所を決め、銅の状態を測ることができた。これからは多くのCuの集まりがCu2OではないかということやCu2Oとコバルトブルーの発色との関わりについて確認する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
現時点で、マッピングXAFS測定により、釉薬断面での金属元素(特に銅)の化学状態の分布をより詳細に解析することが可能であることが分かった。銅の化学状態によるコバルトブルーへの関連性などについては、今後の課題として現れた。これから銅がコバルトと関連することでコバルトブルーの発色をしているのか、銅は陶片の中でどの様な化学状態で存在しているのか、また銅による高火度コバルトブルー釉薬は可能なのか、元素分布の測定と分布元素の化学状態を中心にテストピースによる再現の実験も同時に進めたいと考えている。また、より詳細な金属の濃度や化学状態の空間分布をマッピングXAFS分析の専門家でもある田渕雅夫(名古屋大学シンクロトロン光研究センター教授)との相互協力研究と連携して、銅の化学状態を検討していく。
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Causes of Carryover |
予算の中で主な費用はシンクロトロン光センターの利用額であり、その費用額が高額であることから企業との連携事業や財団の支援を受ける事業に積極的に参加し、利用額の支援を受けることができた。そのため、次年度使用可能額に変更が生じた。本研究は、シンクロトロン光センターの施設を用いた測定が多く、測定結果によって次回の測定内容を決めていく方法で行っている。測定回数の予測や日程調整が難しいため、測定予算はなるべく余裕をもって運営している。 次年度使用額を含む翌年度分の予算も、以上のようにシンクロトロン光センターの利用額を中心に運営していく。また、テストピース作成などは、専門業者へ依頼する予定であることから、設備利用費や業者への依頼費用が主な支出となる見込みである。
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