2023 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
22K00215
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Research Institution | Shobi University |
Principal Investigator |
岡村 宏懇 尚美学園大学, 芸術情報学部, 教授 (70826784)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 舞台芸術 / 演劇 / 竹人形文楽 / 現代口語文楽 / 人形劇 / 水上勉 / 二人遣い / 語り |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、1978年から現在に至る水上勉の「竹人形文楽」公演活動の全容を明らかにすることである。水上勉が創始した竹人形文楽は、現代口語の語りによる二人遣い方式の背差込式竹人形を用いた「人形劇」ということができる。 研究2年目となる今年度は、初年度の成果と課題を引き継ぎ、前年度に行った基礎資料調査を基に更に研究基盤を固めるべく活動を行った。特に竹人形文楽創始期に当たる水上勉主宰「越前竹人形の会」(1978~80年)の活動を中心に調査した。具体的には、当時の活動メンバーに令和5年5月、6月、9月の3回にわたってインタビュー調査を実施した。当時の人形遣い、制作スタッフの懐旧談は、水上勉と劇団員との関係性や初演に至る稽古の日々、地方巡業の実態などの話題に及び、紙碑からは知り得ない貴重な新事実を得ることができた。更に、初演の竹人形版「越前竹人形」が人形劇ではなく芝居として創作されたことを証拠付ける一次資料も発見することができた。以上により、これまで明らかでなかった水上勉の竹人形文楽創始の動機および活動目的について、当初の筆者の推量を裏付ける具体的なエビデンスを得ることができた。また、今年度収集の新たな資料は、前年度に開始した竹人形文楽上演記録に追記し、竹人形文楽研究の十全な基盤資料となるよう点検を進めた。 次年度以降も一層の資料収集および調査に努め、口述資料については証言者の記憶違いや錯誤の可能性に注意し、証言を裏付けるエビデンスの収集に努めるとともに、資料を価値付けながら目的別に分類整理して資料の全体像を明らかにすべく検証を進めていく。そして、研究対象を竹人形文楽の上演活動の全容解明や舞台様式の変遷史だけでなく上演作品内容の検証へも広げ、竹人形文楽について、より全体的な考察を進めながら、その成果を積極的に情報公開してゆく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、竹人形文楽創始期の活動の全容調査を中心に行った。調査対象をモノとヒトに種別し、前年度の竹人形の仕様調査やチラシ・パンフレットなどの上演紙碑調査、公演記録映像のデジタル化などを引き継ぎながら、今年度は更に当時を知る初演メンバー(人形遣い、音響家、制作者など)に5月、6月、9月の3回にわたってインタビュー調査を行った。その結果、概ね当初の計画通りに水上勉を含む活動初期関係者についての見聞を口述記録としてまとめることができた。また、6月から11月までの期間、若州一滴文庫にて令和5年度企画展「水上勉の『演じる言葉』」が開催され、若州一滴文庫所蔵の水上演劇資料が広く公開された。そして9月には同所にて静永鮮子(若州人形座現座長)による記念講演会「竹人形と芝居のこと」も開催された。本機会を通じて改めて一滴文庫所蔵の関係資料を閲覧し、見逃しの初見資料を調査できたこともあって、今年度は当初想定していた以上の資料解析を進めることができた。演劇は一回性のライブな表現芸術であるため、記録として残る資料だけではうかがいしれない記憶として残る当事者や体験者の証言は重要である。今年度収集した口述記録は関係当事者の証言から看取できる水上勉の竹人形文楽創始の動機と目的について明らめるものであり、また、収集資料の広範性から創始期の活動内容だけでなく上演作品研究にまで研究対象が広げられたことは今年度の研究活動の成果として特筆できることである。それら成果の情報公開として、今年度は論文2本を公表することができた。 今年度の収集資料には、次年度以降により一層の成果公表を期待できる資料も含まれており、今年度の研究活動を総括すれば、次年度以降の研究深化および成果公表の基盤を整えるのに十分寄与する内容であったとまとめることができる。以上の成果に鑑み、今年度の研究課題の達成度を上記進捗状況のように評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
水上勉の竹人形文楽の公演活動は3期に区分でき、Ⅰ期は1978~80年の越前竹人形の会、Ⅱ期は1983~85年の竹芸、Ⅲ期は1986~現在に至る若州人形座の活動期間である。研究初年度は、竹人形文楽研究の基盤固めとして全期に及ぶ公演資料の収集および現存竹人形の調査を中心に行った。竹人形文楽で使用された竹人形は、現在NPO法人一滴の里が運営する若州一滴文庫人形館に収蔵されているものが全てであるが、その他に数点の個人蔵の人形の頭(かしら)と面(作者不明)の存在が確認されている。初年度の調査で当該品は竹人形文楽公演での使用歴がないものであることが判明しているが、その来歴については今だ不明であり、現在も調査継続中である。また、竹人形の胴体については八木澤啓造と岸本一定、両竹細工師の作が確認できたが、初年度の調査で、公演間で人形の胴体の使い回しが判明しており、作品で使用された竹人形の制作年と公演年次にズレが見られたことによって、竹人形の制作年別仕様から竹人形の操演法並びに舞台様式の変遷を推定する当初の調査方法は見直しを余儀無くされた。しかしながら、今年度の調査で凡その年次照合を完了することができた。この成果については次年度以降に公表する計画である。研究最終年度もひきつづき竹人形文楽の基礎資料の掘り起こしと収集に努め、収集した資料を価値付けながら整理して、当該資料に基づいた竹人形文楽公演活動のマクロ的検証を進めてゆきたい。また、今年度の資料調査で作品研究に資する資料の収集が進んだことを受け、次年度は上演目についての考察も積極的に進めてゆく計画である。そして研究3年間の締めくくりとして、本研究が水上の竹人形文楽についての基礎研究として、後続する研究に資するべき業績となるよう成果をまとめる準備を進める計画である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額として残った今年度額は物品費等の誤差であり、次年度物品費と合わせて厳密に執行する計画である。
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