2022 Fiscal Year Research-status Report
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22K00222
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
武田 裕子 東京藝術大学, 大学院美術研究科, 講師 (60770154)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 東洋絵画 / 筆法 / 水墨画 / 日本画 / 絵画技法 |
Outline of Annual Research Achievements |
東洋絵画における筆法は日本の美術教育機関において実践的な教授が行われなくなって久しく、伝統絵画教育の場においてもその継承は途絶えつつある。本研究では画家の身体的行為の発露である筆遣い=筆法を、東洋絵画の造形を成り立たせてきた主言語と位置づけ、現代の絵画制作においても応用可能な習得法の確立と理論構築を目的としている。 研究初年度である2022年度は、(1)中国の美術大学における伝統絵画教育資料の収集・分析(2)既存の筆法学習に関する調査(3)実技的検証の3点から調査・検証を進めた。 (1)中国の美術大学においては、伝統絵画教育にあたる「国画」分野で実技的な筆法の教育が現代においても重視されている。筆法を理解する文献資料は清朝にまとめられた『芥子園画伝』や古代の画論が参照されるが、それらは近代以前の語彙で概念的に記されたものが多く、現代の画家が理解し応用するには隔たりが大きい。本研究ではその橋渡しとして近代以降の美術大学の草創期から戦前に教育現場で使用された課徒稿に注目し、画像資料を収集し分析を進めた。(2)明治以降日本においては書道から派生した筆法を用いる水墨画の継承は大学などの専門教育の場ではなく、在野の美術団体や個人の画塾などで伝えられてきたことを踏まえ、国内で活動する水墨画家に対して筆法の習得方法や理論体系について聞き取り調査を行った。(3)筆法を実技的側面から検証するための準備として筆・墨・紙の画材の持つ性質と、その相互作用について条件整理を行った。特に基底材である紙の繊維の長短やにじみ止めの程度によって筆法の効果は異なるが、本年度は熟紙の画宣紙(短繊維の紙、全く滲みのでないもの)に、異なる墨の条件で描画した時の効果についてサンプルを制作し検証を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は基礎資料の収集および実技検証のための条件整理の年と位置付けていたが、おおむね順調に進めることができた。中国における課徒稿資料の収集については、新型コロナウィルスの流行により訪問調査が難しい状況ではあるものの、現地の協力者を得て書籍の収集やオンラインでの意見交換を実施することができた。一方で国内の水墨画家への聞き取り調査は対面で実施し、描画する際のニュアンスや、画家の使う画材に関する詳細な情報を得ることができた。この聞き取り調査は来年度も範囲を広げて実施したいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に入手した資料のうち、中国語の重要文献については次年度に翻訳作業を行う。特に近代中国画の伝統材料研究として詳細な記述のある蒋玄怡(1903-1977)著『中国絵画材料史』中国美術学院草創期の教育者でもあり画家でもあった潘天寿(1897-1971)の教育記録をまとめた叶尚青編『潘天寿論画筆録』について翻訳と内容分析を進める。 課徒稿資料に関しては量が膨大であるため、引き続き可能な限り画像を収集するとともに、画家・画題・年代ごとに整理しアーカイブを作成する。年度後半には原稿内に記載された説明書きの翻訳を行い、それぞれの画家ごとの教育内容について分析を行う段階に進みたいと考えている。また、筆法学習に関する調査は水墨画家だけでなく書道家に範囲を広げて行う。実技検証に関しては、山水画における典型的な筆法について模写を行いながら分析する。
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Causes of Carryover |
今年度、資料収集と中国語文献の翻訳作業を同時に進める計画であったが、課徒稿資料及び近代以降の中国画家の画論が予想以上に多く集まったため、重要度の高いものを選定するために資料収集を優先することとし、翻訳作業に必要な経費を次年度に繰り越した。繰越分は次年度請求分と合わせて翻訳作業を進めるための原稿整理や校正の人件費及び謝金に使用する予定である。
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