2022 Fiscal Year Research-status Report
小袖模様雛形における文学意匠の総合的研究と資料集成
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22K00302
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
森田 直美 明治大学, 経営学部, 専任准教授 (10552945)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | 小袖模様雛形 / 文学意匠 / 小倉山百首雛形 / 百人一首 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は、江戸時代に刊行された小袖模様雛形本の中でも、『小倉百人一首』の意匠化に特化したものに注目して研究活動を行った。具体的には、貞享五年(1688)刊『小倉山百首雛形』を中心とし、他に元禄二年(1689)刊『色紙御雛形』や、元禄五年(1692)刊『新編百人一首絵抄』等にも目を配り、それぞれが収載する小袖図案と、本となった百人一首歌や歌人の実人生とが、どのように連関してデザインが生成されているのかを考察した。 『小倉山百首雛形』は、『百人一首』の全歌を意匠化した非常に貴重な小袖雛形本でありながら、現存する伝本が少なく従来ほとんど研究が行われてこなかった。そこで、同書の完本を所蔵するJ.フロントリテイリング資料館蔵本の書誌調査、および撮影を経て、全図を通覧した上で考察を行った。 同書における『小倉百人一首』の意匠は、和歌に詠まれている事物や景物を素直に取り込んで表現するものが多いものの、和歌内容との連関だけでは説明がつかない不可思議なモチーフも散見される。それらは、和歌とは直接関係のない、作者自身にまつわる説話や歴史的エピソードに目を向けることで、ある程度その意図を読み取ることができた。また、和歌から数段階の連想を経て到達したモチーフもあり、同時代の絵画や工芸品には見られない、テキスタイルデザインならではの諧謔性も看取された。 なお、上記の研究成果は、和歌文学会6月例会(於:二松学舎大学)での口頭発表(発表タイトル「小袖模様雛形における文学意匠研究序説」)や、論文「小袖模様雛形における『百人一首』の意匠―『小倉山百首雛形』を中心として―」(『明治大学教養論集』通巻569号、2023年3月)をもって公表した。 さらに次年度に向けて、『源氏物語』を意匠化した小袖雛形の抽出、および伝本調査にも着手した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度の主な研究目標は、『百人一首』に特化した小袖模様雛形本の調査・研究であった。「研究実績の概要」にも記したとおり、その貴重さに反して従来あまり目を止められてこなかった版本、『小倉山百首雛形』の現存完本を見出し、所蔵館(J.フロントリテイリング史料館)での実地調査と全丁撮影を行うことができた点が、基礎資料収集の成果として大きい。 また、もととなった百人一首歌と対照させるだけでは読み解けない不可思議な図案(モチーフ)に関して、おおよその発想限を探り当てることができた。百首の図案の内、数点については考察の余地を残したが、2023年度以降も引き続き追究していきたい。 そして、調査・研究の内容を、口頭発表や論文を通して発表するところまで達成することができた。また、次年度以降の研究活動と、その成果発表に向けての準備にも着手するなど、申請時の目標を概ね予定通りの形で遂行した。 以上をもって、2022年度の進捗状況は「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は、前年度に取り組んだ小袖模様雛形における『百人一首』の意匠を引き続き追究するとともに、研究の中心を「小袖模様雛形における『源氏物語』の意匠化」に移す。具体的には、貞享4年(1687)刊『源氏ひながた』が収載する図案の生成過程やモチーフに込められた意図を明らかにする。同書の小袖図案については、先行研究による検討がいくつか確認できるものの、まだまだ解明できていない点が多い。収載図案を数点のみ見て傾向を語るのではなく、同書が有する『源氏物語』の意匠を通覧し、さらに周辺の小袖模様雛形本にも目を配ることで、より深い絵解きが可能となると見込んでいる。 また、これと並行して、同じく『源氏物語』の意匠図を多く収めるものの、現存伝本が乏しことからほとんど研究されてこなかった、『源氏千載ひながた』(享保頃刊)についても考察を進めたい。 さらに次年度に向けて、『伊勢物語』を意匠化した小袖模様雛形図の調査・研究についても準備を進める。
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Causes of Carryover |
2022年度は、概ね計画に沿って支出したものの、コロナ禍による抑制等が原因となり、学会出張や調査出張に対する支出がやや少なかった。
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Research Products
(2 results)