2023 Fiscal Year Research-status Report
GHQ/SCAP検閲と米国の対日占領政策が戦後日本文学・文化に与えた影響
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22K00316
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Research Institution | Kyoto University of Education |
Principal Investigator |
天野 知幸 京都教育大学, 教育学部, 教授 (40552998)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | GHQ/ SCAP検閲 / 引揚文学 / 引揚援護雑誌 / 東西冷戦 / ポスト帝国主義時代の移動 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究計画通り、一般的に流通している引揚者イメージとの差異やGHQ/SCAP検閲の影響などを視野にいれながら、GHQ占領期における越境者としての引揚者表象を当時の大衆演劇を題材に分析し、その成果を学術雑誌に発表した。また、2023年度に計画していた外地、ソ連、東アジアの記憶の表象についても、引揚援護雑誌という引揚者向けのメディアに収められた詩歌や評論の分析を行い、引揚者自身の文学言説の特徴・引揚言説や引揚援護雑誌に対するGHQ/SCAP検閲の影響・1947年以降に急増する共産主義への批判言説などについて分析した。この分析から、当時の引揚援護雑誌における言説、表現においても、対日政策が強い影響力を持っていることがわかった。
これらの研究成果は、研究論文:単著「大衆文化における引揚の表象(1):ムーラン・ルージュ新宿座と中江良夫「生活の河」」『京都教育大学 国文学会誌』(51)、 pp.58-70、2023年8月として発表した。また、メディア専門の研究会において、個人発表「引揚援護雑誌における言説研究 ――ジャーナリズムと“援護”の視点から 」20世紀メディア研究所第173回研究会、早稲田大学、2024年1月27日として発表した。
以上の研究から、帝国主義時代の人の《移動》《接触》の記憶が占領期(1945~1952年)からポスト占領期および米ソのデタント前までの東西冷戦前半期(1952~1968年)において、どう記述・表現され、また、そこにはいかなる傾向が存在するのかという、本研究課題の解明に一歩近づいた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2023年度は、引揚文学・演劇・映画の研究を行い、GHQ占領末期からポスト占領期、東西冷戦期に急増し続ける引揚文学・映画・演劇を分析する計画であった。その計画の通り、引揚表象の演劇における事例の考察を学術雑誌に発表した。また、2023年度に計画していた外地、ソ連、東アジアの記憶の表象の考察についても、当時の引揚援護雑誌をもとに行い、メディア研究を専門とする研究会で発表した。(単著論文「大衆文化における引揚の表象(1):ムーラン・ルージュ新宿座と中江良夫「生活の河」」、『京都教育大学 国文学会誌』(51)、 pp.58-70、2023年8月)、個人研究発表「引揚援護雑誌における言説研究 ――ジャーナリズムと“援護”の視点から 」20世紀メディア研究所第173回研究会、早稲田大学、2024年1月27日)
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画書通り、GHQ/SCAP検閲研究と米ソの対立が苛烈化した東西冷戦前半期の文学・文化研究とを架橋するために、ポスト占領期へも研究対象を広げてゆく。そうすることで、対日占領政策、GHQ/SCAP検閲、東西冷戦が戦後の言説・表象にもたらした影響を見渡し、帝国主義時代の《移動》《接触》の表象の特徴とそれを取り巻く政治的問題、《移動》《接触》に関する集合的記憶の形成について明らかにしたい。
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Causes of Carryover |
調査対象とした資料が既に手元にあったため、出張の回数が予定よりも減った。そのため、次年度使用額が生じてしまった。
令和6年度には出張回数を増やし、資料館、図書館および引揚記念館での調査を行う予定である。
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Research Products
(2 results)