2023 Fiscal Year Research-status Report
Fundamental research for Literature of Anti-Christian sentiment
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22K00317
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Research Institution | Momoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
南郷 晃子 (中島晃子) 桃山学院大学, 国際教養学部, 准教授 (40709812)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
三好 俊徳 佛教大学, 仏教学部, 准教授 (00566995)
服部 光真 公益財団法人元興寺文化財研究所, 研究部, 研究員 (00746498)
菊池 庸介 福岡教育大学, 教育学部, 教授 (30515838)
井上 舞 神戸大学, 人文学研究科, 特命講師 (30623813)
シュウェマー パトリック 武蔵大学, 人文学部, 准教授 (30802946)
杉山 和也 順天堂大学, スポーツ健康科学部, 准教授 (40907557)
小峯 和明 立教大学, 名誉教授, 名誉教授 (70127827)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | キリシタン文学 / 反キリシタン文学 / 吉利支丹 / 切支丹 / キリシタン実録 / 吉利支丹由来記 / 他者表象 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は、反キリシタン文学作品の基礎研究として『吉利支丹由来記』の位置付けを行なった。近世におけるいわば最大の宗教的他者であった「キリシタン」への眼差しは当時のさまざまな作品において結晶しているが、先行研究では事実性との乖離や表象の差別性、あるいはそれらにすら含まれるキリスト教思想の卓越性といった点に重点が置かれてきており、表象としての説話的意味は十分に読み解かれてはこなかった。そもそも作品自体の検証も十分になされたとは言い難い。しかし、歴史としての「正確さ」から乖離しているようにみえるそれら表象こそが、近代移行期における西洋との苛烈な再会を準備したのだといえる。当時の眼差しそれ自体を正面から検証することは喫緊の課題である。 そのため反キリシタン作品を順次精読し、位置付けを進めていくとともに、またそれと並行して『切支丹宗門来朝実記』『南蛮寺興廃記』などの題名を持つ膨大な反キリシタン写本群の整理・理解を進める必要がある。本研究課題においては、これら写本群のうち、特徴を持つものいくつかピックアップし、それらの位置付けを明確にすることで、周辺作品の位置付けも進めていくというという方法を取り、2023年度はその第一歩として、『吉利支丹由来記』の基礎調査を行なった。姉崎正治、またチースリクといった戦前の研究において、反キリシタン写本群に影響を与えたと指摘されながらも、踏み込んだ研究がなされていないままだった『吉利支丹由来記』の位置付けを行うことが写本群研究、ひいては反キリシタン文学作品研究の重要な足掛かりになる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2023年度は、2022年12月に長崎市で行った説話文学会例会での報告成果の論文化の準備を進めた。長崎例会においては、当研究課題に関連してキリシタン文学・反キリシタン文学のシンポジウムを行い、その説話的可能性を本プロジェクトに参加する個々が示すことができた。特に注目すべきは、ここでキリシタン・反キリシタン文学作品と国外作品および国外の研究状況との関連が示されたことであろう。研究代表者である南郷も同席上で非日本語の先行研究の成果を明確にしながら『吉利支丹由来記』の特異性を報告することができた。これらの成果は、すでに論文として提出済みであり、2024年度中に公開される。なお同論文においては、『吉利支丹由来記』の成立が先行研究の記す成立年代より下ること、さらには同書に先行する反キリシタン文学作品である『吉利支丹物語』から物語性を除外したものであることを示した。 併せて、継続中のキリシタン文献を読む読書会において反キリシタン作品、雪窓宗崔『対治邪宗論』との関連が想定される多福寺所蔵の「喜利志袒仮名書」を読み進めている。2022年度に行った多福寺における同書の原本調査を踏まえて。あらためての翻刻、検証を進めている。これらからは、反キリシタン文学作品に国外からの知識が流れ込んでいることが明らかになりつつある。以上の成果を2024年度中にまとめ、刊行することを予定しており、2024年3月にそのための準備として報告・研究会を行なった。 また膨大に広がるキリシタン実録類の研究につなげていくため、23年度は、同実録類のうち特色を持つと考えられるものについて洗い出す作業も行なっており、そこから重点をおくべき作品がいくつか明確になってきた状況にある。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、より細かな点にこだわった丹念な作品理解を進めると同時に、その成果に則りながら、世界史的な運動と関連付けたキリシタン文学・反キリシタン文学群そのものの位置づけを行っていく。前者に関しては『吉利支丹由来記』の概要を把握することができたので、今後はキリシタン写本群における他の特徴を持つものについて焦点を当てる。具体的には、版本として出された『吉利支丹物語』と、版本が流布しなくなった後広がった、似た内容を持つ写本『切支丹宗門来朝実記』(あるいはその類話)の過渡期のものと見做しうる写本作品について、詳細を明らかにする。また併せて近代至るまでの「西洋」観の問題につながることとして、写本群の表象の問題についても扱っていく。 さらにこれまでの研究から、これらキリシタン文学・反キリシタン文学を日本における問題として完結させず、大航海時代に端を発する文化摩擦の表象として捉えるという方向性の重要性が浮かび上がった。この関心に基づき、2024年度に共著作をまとめ上げる。当初計画していた以上に広くなった問題意識に対応するため、同書においては、科研分担者以外にも参加をしてもらうものとする。なお2023年3月の報告会において今後共著作をまとめるでの方針を確認するとともに、執筆予定の研究内容についての紹介・意見交換を行なった。
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Causes of Carryover |
それぞれの事情により、分担者が2023年度ではなく、2024年度の調査や集中的な研究のタイミングを合わせたケースがあった。そのため次年度使用額が生じたが、2024年度には東北や長崎への調査および関連図書の購入を中心に予算を使用するものとする。
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Research Products
(13 results)