2022 Fiscal Year Research-status Report
『竹取物語』を中心とした9世紀文学圏における仏教受容の研究
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22K00325
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Research Institution | Otsuma Women's University |
Principal Investigator |
久保 堅一 大妻女子大学, 文学部, 教授 (30624085)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 「長恨歌」 / 『竹取物語』 / 仏伝(釈尊伝) / 仏教 / 神仙思想 / 物語文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は、唐・白居易の詩篇「長恨歌」における仏伝の受容について指摘し、その意義を考察した。 「長恨歌」は『竹取物語』が成立した9世紀に日本にもたらされ、物語作者層に享受されていた作品である。物語文学が誕生した背景に迫るため、9世紀の文学圏における仏教(漢訳仏典、仏教思想)の受容を調査するという本研究の目的から、「長恨歌」における仏伝受容の考察は、大きな意義を持つものといえる。 調査の具体的な結果としては、「長恨歌」後半に登場する仙界の玉妃(仙女となった楊貴妃)が、来訪した道士に託して地上の皇帝に向けて発したことばに、仏伝経典『仏本行集経』の受容を指摘した。『仏本行集経』では、修行の旅に出てしまった夫・釈尊に向かって、取り残された妻の耶輸陀羅が訴える悲嘆のことばが記されるが、そこには「長恨歌」の玉妃のことばと重なる要素が複数認められる。このことから、「長恨歌」の玉妃のことばは、仏伝の耶輸陀羅のことばを受容していると考えた。また、その背景として、仏典のなかの煩悩をも切なる感情として共感的に見据える白居易のまなざしを想定した。 以上のように考察したうえで、「長恨歌」における仏伝受容を、『竹取物語』におけるそれと比較した。両者の仏伝受容の類似点に注目し、『竹取物語』作者や彼を含めた物語作者層が、「長恨歌」の仏伝受容を学び、それを創作に活かしていた可能性について言及した。また同時に、両者の仏伝受容の差異にも着目し、『竹取物語』作者が、煩悩や執着といった感情を、天界・仙界の存在ではなく、あくまでも地上のか弱い人間のものとして位置づけたことを重視して、その点に素朴な古代伝承とは異なる物語文学の特質を見た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
『竹取物語』じたいの仏教受容に関する研究は進められなかったが、平安時代の日本において大きな影響力をもった「長恨歌」の仏伝受容について研究できたことは、物語初発期の文学圏に属する作者層が身につけた仏教的教養について考察する足がかりを得られたこととして評価できると考える。今後の研究への基礎固めと位置づけられるので、「おおむね順調に進展している。」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の中心的な課題である、『竹取物語』における仏教知識・仏教思想の受容の調査を進めてゆきたい。これまで等閑視されてきた、さりげない語や表現に特に細心の注意を払いながら、仏教的な背景について調査する予定である。 上記の研究ではかばかしい成果が得られないと判断されたときは、『竹取物語』と同時代のテクストと考えられる『新撰万葉集』や『菅家文草』を対象とすることを検討する。また、9世紀の文学作品ではなくなってしまうが、仏教知識がふんだんに受容されている『うつほ物語』を視野に入れることも対応策の選択肢に入れておく。
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Causes of Carryover |
当該年度の研究に必要な書籍の購入額が当初の予定よりも少なくて済んだことと、新型コロナウィルス感染症の流行から情報収集・調査のための旅費を使用しなかったことにより、次年度使用額が生じた。 これについては、翌年度の書籍購入費用に充てるとともに、調査旅費としても使用してゆく予定である。
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Research Products
(2 results)