2023 Fiscal Year Research-status Report
タイを中心としたアジアを表象する〈戦後文学〉と保守政治についての分析研究
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22K00342
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Research Institution | Fukuoka University of Education |
Principal Investigator |
久保田 裕子 福岡教育大学, 教育学部, 教授 (30262356)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 戦後文学 / 三島由紀夫 / 保守政治 / 松本清張 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.戦後文学に描かれた大正期の象徴詩をめぐる読書の場面についての分析的考察として、論文「松本清張『表象詩人』における詩の創作と読書の記憶」(『松本清張研究』第25号、2024年3月、21~33ページ)を発表した。2.戦後文学の領域における〈駐在員の妻〉という表象についての分析研究として、太平洋戦争前後から1960年代以後の高度経済成長期において、異文化との交流を描いた〈戦後文学〉テキストの分析を行う上で、本研究の研究課題であるタイを含むインドシナ半島の他に、アラスカにおける状況を描いた小説を分析した。1960年代の日本社会の反映としてのジェンダー意識を反映した〈駐在員の妻〉という表象を描いた大庭みな子の「トーテムの海辺」において、大阪万博を背景にした小説と特定し、同時代の「アラスカ・パルプ」の職場雑誌の記述と比較検証しつつ考察した。その成果を、女性文学会において、「大庭みな子「トーテムの海辺」と場所の記憶―アラスカ・パルプと〈駐在員の妻〉という表象」(2023年5月27日、Zoom発表)として研究発表を行った。3.文学研究と文学教育との連携についての考察として、文学研究の成果をどのように文学教育へと還元するかという課題について、高大接続改革を視野に入れたシンポジウムを学会で開催し、コーディネーターとして企画・運営し、2023年度日本近代文学会九州支部秋季大会シンポジウム「これからの「国語」をめぐる文学と教育」(2023年11月18日、熊本高専八代キャンパス)を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
【理由】本研究は研究期間を通じて、佐藤栄作政権の東南アジア政策を通して官邸と関わった〈戦後文学〉の作家の執筆活動と作品について検証し、1960年代後半の保守政治と文学との関係について明らかにし、その検証結果をふまえて、東南アジア政策を通じて官邸と関わった〈戦後文学〉の作家の作品について、アジア表象が構築された経緯を明らかにすることを目的としている。研究方法として、『オンライン版楠田實資料(佐藤栄作官邸文書)』などの資料を参照して、文学作品の背景にある政治的状況を踏まえつつ、〈戦後文学〉のアジア表象について明らかにする。そのための方策として、タイ人日本文学研究者との国際研究者交流を課題としているが、2023年度前半期は、家族の介護に携わるという個人的な状況もあり、未だコロナの環境における特段の配慮が必要であった。そのために海外や遠隔地への出張を伴う図書館などでの調査が滞っていたため、予定よりもやや遅れる結果となった。その他の課題については、2023年度後半期に、当初の計画を踏まえて、以下の計画を遂行した。 1.〈戦後文学〉に描かれたインドシナ半島地域をめぐる文化表象を示すテキストを調査し、リスト化する作業を継続して行った。 2.国会図書館や日本国内の大学図書館等で研究基盤となるインドシナ半島に関連する資料を調査・収集し、日本との政治・経済的な背景が文学作品に反映された経緯を検証した。3.1960年代当時の社会状況を反映した同時代資料と文学作品と比較しつつ、タイなどの東南アジアと、アラスカなどの同時代の日本企業が進出した地域の社会や歴史と文学作品の関係性について分析した。4.1~3の研究を継続し、研究成果を国内外において発表する。以上の計画の遂行のためには、文献調査や研究発表の日程を調整するなどして柔軟に対応すれば、遂行可能である。
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Strategy for Future Research Activity |
1.戦後文学に描かれたインドシナ半島地域をめぐる文化表象を示すテキストを調査する。国会図書館や日本国内の大学図書館等で研究基盤となるインドシナ半島に関連する資料を調査・収集し、日本との政治・経済的な背景が文学作品に反映された経緯を検証する。当時の社会状況を反映した同時代資料と文学作品と比較しつつ、タイの社会や歴史と文学作品の関係性について分析する。2.本研究で明らかにする内容は、前年度まで行った文学テキストと同時代資料との照合・分析と考察を継続する。同時代言説の叙述を参照して、三島由紀夫、遠藤周作の小説・評論と比較検討し、アジア異文化表象の構築の経緯を明らかにする。3. 東南アジア政策を通じて官邸と関わった戦後文学の作家の作品について、アジア表象が構築された経緯を明らかにする。そのための方策として、「日本・タイ文化研究所図書館備付図書目録」第1号(1939年9月)に記載された図書や雑誌「シャム国日本人会会報」などを調査・収集し、当時の社会状況を反映した同時代資料と文学作品と比較しつつ、タイの社会や歴史と文学作品の関係 性について分析する。4.1940年代に刊行された日本語雑誌「日本タイ協会々報」、1960年代にバンコクで刊行された「クルンテープ」などの雑誌の中で、小説の背景となる経済進出した日系企業の駐在員の生活に関する記述、ベトナム戦争下のタイ在住日本人の状況などの記述を参照し、同時代の出来事や社会状況を反映した小説の分析を行い、戦後文学における、国際的な拡がりについて検証する。5.1~4の成果について、研究協力者との共同研究に基づく研究成果を論文として発表することで、日本国内における成果発表を中心に遂行する予定である。そのための方策のひとつとして、2024年7月に、タイ国チュラーロンコーン大学のナムティップ・メータセート教授と国際研究者交流を行う予定である。
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Causes of Carryover |
(理由)2023年度の研究計画に従い、研究を遂行したが、その過程で生じた予算執行金額の残額は、物品費の中で図書費などがやや少なかったためである。計画的な資料購入のために、2024年度に有効に活用することにした。また2023年度前半期は未だコロナの影響下にあったため、国内外における長距離の移動による出張旅費が使い難いという事情があったが、2024年度には成果発表を含めて、有効に利用する予定である。日程を調整するなど柔軟に対応すれば、計画的な予算執行が可能になる。 (使用計画)2024年度は、前年度の余剰があった金額について、当初の執行予定金額に図書購入を加えた費用に充てる予定である。執行予定金額が増加することによって、本研究の遂行にあたって必要な図書や資料を購入することが可能になる。また研究の最終年度として、これまでの研究成果を発表するなど、有効に旅費等を使用することで、予算を有効に活用することができる。
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Research Products
(4 results)