2022 Fiscal Year Research-status Report
澁澤龍彦蔵書目録を基盤とした文学におけるコラージュとアダプテーションの基礎的研究
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22K00343
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
跡上 史郎 熊本大学, 大学院人文社会科学研究部(文), 准教授 (40261565)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
倉方 健作 九州大学, 言語文化研究院, 准教授 (00625741)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | 引用 / コラージュ / 剽窃 / アダプテーション / 錯覚 / 学制 / 蔵書目録 / ブッキッシュ |
Outline of Annual Research Achievements |
「澁澤龍彦蔵書目録」は、作家・翻訳家である澁澤龍彦が所有していた書籍の目録である。この目録には、澁澤が収集した多岐にわたる書籍や資料が含まれており、それらは日本古典文学、日本近現代文学や海外文学、思想や美術、神秘主義など、幅広い分野にまたがっている。本から本を作るリブレスクな作家である澁澤龍彦を理解するにあたって、澁澤の蔵書は非常に重要な研究資料である。 没後35年を経た現在も新たな読者を獲得し続ける澁澤龍彦は、特有の文化領域を確立しており、澁澤龍彦蔵書目録に基づく研究は、澁澤個人のみならず、澁澤龍彦的文化圏がどのようにして形成されていったかを明らかにするものである。 当該年度においては、初期の澁澤龍彦が、ロラン・ヴィルヌーヴ等を用いつつ、ほぼ抄訳のようにしてその著作を作っていったことが明らかにされたが、これは初期澁澤の研究を大きく進展させる発見であった。併せて、学制の観点から作家・澁澤龍彦の成立とアカデミズムの関わりについても実証的な研究がなされ、インターネット上でも注目された。 また、初期から晩年までを貫く「分身」の主題を代表する後期作品「鏡と影について」が分身小説というジャンルそのものへの批評であることが、典拠の実証的な調査から明らかにされた。また、直後の「画美人」の典拠の調査から、パロディやアダプテーションといった現行の理論だけでは捉えきれない、澁澤のコラージュの実態が解明され、学会への問題提起として注目されている。なお、副産物として『日本近代文学大事典 増補改訂デジタル版』の新規項目「出口裕弘」(JapanKnowledge、2023・3)にも本課題の成果が生かされている。 なお、本課題は『澁澤龍彦蔵書目録』と澁澤の著作との対応関係を明らかにすることが目的であるが、『澁澤龍澁澤龍彦全集』全22巻のうち、5巻まで調査の下地となる「要調査項目」データベースを作成済である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題は、文学理論的にはアダプテーションやパロディといった概念を用いる目論みから出発しているが、そのような理論が要請するデータの事例が次々と発見され、論文化されており、初年度としては順調な滑り出しと言える。一方、澁澤のテクストというデータそのものは、アダプテーションやパロディの範疇では捉えられないものもある。「引用と反復の臨界点:澁澤龍彦「画美人」の遠近法」(『日本近代文学』107、2022・11)の要旨英訳の際、翻訳者は「澁澤は有名作品を用いてコラージュを作っている」と日本語原文にはない「有名」を補った訳文を提案してきたが、この事例に見られるように、アダプテーションやパロディの理論は、すでに広く知られた典拠を用いるという暗黙の前提がある。しかし、澁澤が用いる材源は、無名のものも多数あり、従来の理論では捉えられない。この問題を乗り越えるため、研究代表者は、上記論文において「かくし絵」「だまし絵」にまつわる錯覚・認知の問題系からアダプテーション・パロディの理論の拡張を提案し、『日本近代文学』審査を通過した。『澁澤龍彦蔵書目録』に基づいた上質なデータから、理論的更新が試みられ、一定の評価を得るという観点からも、進捗状況としては、おおむね順調と言えるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的に今年度のやり方を維持していくが、澁澤の小説に比して、エッセー関連の研究が薄いという課題があるので、そちらへの目配りを意識するようにする。
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Causes of Carryover |
まず第一点として、当初計画していた謝金を使った調査が、被依頼者の都合により次年度へと移動となったこと、第二点として、研究分担者の使用するPCを高速処理を可能とする新型に置き換える計画だったが、当該新型機種の発売が2023年度にずれ込んだためである。 2023年度は、謝金を使った調査を行い、研究分担者の使用するPCを新型に置き換え、より効率的な研究環境を整える計画である。
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Research Products
(7 results)