2023 Fiscal Year Research-status Report
英米文学の太平洋物語における大衆性と芸術性のダイナミズムについての研究
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22K00375
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
山本 卓 金沢大学, 学校教育系, 教授 (10293325)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 文学における太平洋イメージ / R. L. Stevenson / Herman Melville / ポストコロニアリズム批評 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度の研究で浮上したR. L. Stevensonの太平洋物語における大衆性と芸術性との相克を相対化するために、本年度は先行するHarman Melville、R. M. Ballantyne、Charles Warren Stoddardの作品を検証した。これらの作家の読解によって確認できたのは、太平洋についての言説の二極化の過程である。Melvilleの太平洋物語は、その根幹を形成する作者のポリネシアでの体験の信憑性が疑問視されてきたが、小説作法の見地に立つとMelville的な手法として解釈することもできる。後の代表作の一つである"Bartleby"において、より洗練された形で展開して見せた「異質なものへの観察を通した社会批判」の祖型が彼の太平洋小説に存在する。とりわけOmooはTypeeよりもより風刺的で、その分だけ太平洋へのエキゾティシズムが減少し、Stevensonの太平洋物語と大きく共通する。その一方で、Stevensonへの影響が指摘されるR. M. Ballantyneの太平洋物語は、若年層の読者を対象にしたものであることを考慮しても、キリスト教的な価値観が強調されており、そこに適合しない文化や慣習にはきわめて不寛容である。結果的に太平洋世界は、西洋とは隔絶したロマンチックな場として描かれることになる。こうした太平洋像の継続には、Stevensonとほぼ同時代のStoddardの牧歌的な作品群も大いに加担している。これらの検証によって、Stevensonの太平洋作品の抱える二重性が、メタファーとしての太平洋の二極化と連動関係にあること、また、芸術性を志向するものの太平洋世界に魅了される彼自身の西洋人性を克服できなかったことが確認できた。なお、今年度の研究には大英図書館とロンドン大学の図書館での文献調査が非常に有効だった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度の遅延を取り戻し、概ね計画通りに進行している。
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Strategy for Future Research Activity |
計画書通り作品の読解と検証を進める。
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Causes of Carryover |
謝金等に支出を予定してものの実際の人件費業務が発生しなかったこと、また消耗品の支出が想定してよりも少なかったことが原因である。
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