2022 Fiscal Year Research-status Report
Books and Documents in Neo-Victorian Fiction
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22K00384
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Research Institution | Juntendo University |
Principal Investigator |
中妻 結 順天堂大学, 国際教養学部, 嘱託教員 (90925091)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | ネオ・ヴィクトリアニズム / ヴィクトリア朝 / 書物のイメージ / 読み物文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
1990年代以降イギリスを中心とした英語圏では、ヴィクトリア朝(1837-1901)を舞台とし、現代的視点で過去を語る小説、映画、ドラマの目覚ましい興隆を見た。2000年代後半以降には、ヴィクトリア朝研究、ポストモダニズム研究、文学理論を横断しながらこれらの作品を対象とする研究が盛んとなり、「ネオ・ヴィクトリアニズム」という言葉が誕生した。本研究は、「なぜネオ・ヴィクトリア作品群が、この30年間に英語圏で流行し、サブ・ジャンルと位置付けられるほどに発展していったのか」、という学術的問いを書物や文字のイメージを通して探るものである。本申請者はこの作品群に現れる過去の保存とそれに対する現在の推進性に着目してきたが、その中でこの作品群の底流にある「書籍・本・書かれたもの・文字」の物理的な存在のイメージに新たなる可能性を発見し、その解明を目的と定めた。書物のイメージの脆弱さは、SNSやデジタルデバイスの登場と氾濫により、本の衰退、文字文化の低迷が叫ばれる現状を映しだし、同時にこの衰退と低迷に抗う文壇からの叫びなのではないかという仮説を実証することが目標である。 本年度は、ネオ・ヴィクトリア小説の確認と決定を目標としていたが、これまでに既に多数の小説を確認していたため、むしろ令和5-6年度に実施すると定めていた「本」「読み物」「書籍」に関する社会的・文化的イメージを確認することが中心となった。特に、19世紀における、書物のイメージを、文化、社会、歴史という観点で、書誌学的アプローチをするための資料の収集や研究を行った。ヴィクトリア朝でも、書物の人気から舞台作品や広告にまでメディアを変更しながら庶民に広まるエンターテイメントがあり、識字率が歴史上最も拡大した時代に、既に文字文化そのものがその他の音声メディアに吸収されていくことがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、本年度はネオ・ヴィクトリア小説の確認と決定を目標としていた。しかし、これまでに既に多数の小説を確認していたため、またヴィクトリア朝時代の大衆作家の資料を収集する機会を得たため、むしろ令和5-6年度に実施すると定めていた「本」「読み物」「書籍」に関する社会的・文化的イメージを確認することが中心となった。ネオ・ヴィクトリア小説の確認と選定に関しては遅れているが、令和5-6年度に予定している書物のイメージの調査については大幅に進み、今後発表・論文執筆を計画している。計画と時期はずれたが、おおむね順調に進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、主に19世紀における、書物のイメージを、文化、社会、歴史という観点で、書誌学的アプローチをするための資料の収集や研究を行った。令和5年度は収集した資料を精査し、学会発表や論文執筆を行うことが目標である。 また、当初予定していたネオ・ヴィクトリア小説の確認と決定に関しては、令和5年度に「バイオフィクション」という観点からネオ・ヴィクトリア小説を研究する機会を得たため、「バイオフィクション」という新たな視点からネオ・ヴィクトリア小説の書物のイメージを解明する。バイオフィクションは、過去の作家を現代の小説等の作品に「書き直す」ジャンルであり、今後のネオ・ヴィクトリアニズムと書物のイメージの研究推進の一助となるだろう。
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