2023 Fiscal Year Research-status Report
Books and Documents in Neo-Victorian Fiction
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22K00384
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Research Institution | Kanazawa Gakuin University |
Principal Investigator |
中妻 結 金沢学院大学, 文学部, 講師 (90925091)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | ネオ・ヴィクトリアニズム / ヴィクトリア朝 / 書物のイメージ / 読み物文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、「なぜネオ・ヴィクトリア作品群が、この30年間に英語圏で流行し、サブ・ジャンルと位置付けられるほどに発展していったのか」という問いを書物や文字のイメージを通して探り、この作品群が現代の文字文化の脆弱性を暴きながら、その先の推進性をも示しているという仮説を実証することを目標としている。 本年度は、ネオ・ヴィクトリア小説の確認と現代の文学界における位置づけを議論するために資料の収集や研究を行った。これまで本申請者は「ネオ・ヴィクトリア小説」と一般的に呼称されている小説を論じてきたが、Biofictionと定義されるジャンルからこの小説群の20世紀以降の発展を明らかにすることを試みた。過去の作家の伝記を現代の視点から創作するBiofictionという視点で見ると、ヴィクトリア朝作家(今回はチャールズ・ディケンズ、オスカー・ワイルド、ブロンテ姉妹)の人生を現代的視点から再評価する小説や映画が一定数存在し、それらもまたポストモダニズム研究や文学理論を応用しながら創作されてきたことがわかる。これらの作品を通して、作家の「伝記」に現れる事実をフィクションにする過程で、事実をどのように乗り越えていくか、という視点に立って小説作品を論じることができた。結果的に、ネオ・ヴィクトリア小説の現代における意味付けに一定の成果を見ることができた。 申請書で令和5-6年度に予定していた「本」「読み物」「書籍」に関する社会的・文化的イメージの確認に関しては、令和4年度に引き続き、19世紀における、書物のイメージを、文化、社会、歴史という観点で、書誌学的アプローチをするための研究を行った。特に、当時は今やキャノンとされるチャールズ・ディケンズと同等かそれ以上と見られていた大衆向け作家の、書物からそのほかのメディアへのエンターテインメントの広がりを確認し、令和6年度に論文にする予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、申請書では令和4年度に予定していたネオ・ヴィクトリア小説の確認と決定、文学史における位置づけを確認する作業を行った。特に、Biofictionとの関連に関しては、他の文学研究者からの協力を得て、新しい視点に立ってネオ・ヴィクトリア小説のジャンルを俯瞰できたことが成果である。 当初令和5年度に予定していた書物のイメージに関する研究を令和4年度に始めたため、研究順が前後するものの、おおむね順調に進んでいると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、主に「ネオ・ヴィクトリア小説」に関する研究を進め、資料の収集や研究発表を行った。今後は、研究・発表の成果を論文にする予定である。 また、19世紀における、書物のイメージの研究では、大衆文学が他のメディアに広がりを見せた例として、Douglas Jerroldが読み物として出版した作品が、歌謡曲にまで変容していた事実がある。2002年に伝記が出版されたが、これまで雑誌編集者として以外では、あまり研究はされていない。ただし、社会における文字文化の消費の増大という観点で、本研究を進める一助になると想定しているため、令和6年度も引き続き検証を進める予定である。
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Causes of Carryover |
令和5年度に、「本」「読み物」「書籍」に関する社会的・文化的イメージを解明するために、19世紀及び20世紀の読書行為、書籍の存在、読者の存在について歴史的、文化的イメージに関するこれまでの研究を進める予定であったが、主にこれまで収集したネオ・ヴィトリア小説と19世紀の大衆文化についてを題材としたため、未使用額が生じた。 このため、令和6年度にはこれまでほとんど着手してこなかった書誌学的なアプローチに関する題材を収集する予定である。
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