2022 Fiscal Year Research-status Report
17世紀大西洋におけるピューリタンの活動とホーソーンの作品
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22K00401
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Research Institution | Tokyo University of Marine Science and Technology |
Principal Investigator |
大野 美砂 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (30337711)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ナサニエル・ホーソーン / ピューリタン / 『七破風の屋敷』 / 「やさしい少年」 / クエーカー / 「ロジャ・マルヴィンの埋葬」 / 『アフリカ巡航者の日誌』 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、歴史や宗教史の分野で進められてきた、環大西洋の視座からのピューリタニズム研究の成果を、17世紀アメリカ植民地を舞台にしたホーソーンの作品の分析に応用する試みである。2022年度には、5月に開催された日本ナサニエル・ホーソーン協会全国大会シンポジウムで、『七破風の屋敷』について口頭発表をする予定があり、そのなかで作品に登場する一族の家族観の変遷を17世紀から19世紀までたどることを予定していたため、本研究の採択が決まってからは、特に初期アメリカのピューリタンたちの家族観やジェンダーに対する考え方に焦点を当てて、発表の準備を進めた。発表の内容をもとにした論文「『七破風の屋敷』における中産階級家族の形成と労働者/奴隷の表象」が、論集『ロマンスの倫理と語り』に収録され、2023年5月に出版された。また、2023年3月に出版された論集『改革が作ったアメリカ』で「クエーカーとホーソーン」というタイトルのキーワード解説を執筆し、「やさしい少年」をはじめ、ホーソーンの作品に描かれたクエーカーを分析するとともに、17世紀アメリカ植民地におけるピューリタンとクエーカーの対立に関する歴史の資料を集めた。本研究の採択が決まる直前に提出した論文ではあるが、アメリカにおいてピューリタンがフロンティアを神話化していった過程をたどりながら作品を分析した論文「「ロジャー・マルヴィンの埋葬」におけるヒーロー言説の解体」が、2023年8月発行の『エコクリティシズム・レヴュー』第15号に掲載された。また、入子文子著『複眼のホーソーン』の書評が2023年3月発行の『フォーラム』第28号に掲載された。ほかには、2017年度から2020年度の基盤研究の成果になるが、中央大学の髙尾直知先生や京都産業大学の中西佳世子先生とともに進めていた『アフリカ巡航者の日誌』の翻訳が完成し、2022年10月に出版された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度には、研究発表や論文執筆、書評の執筆をとおして、ホーソーンが17世紀のピューリタンについて描いた作品のいくつかを読み直し、大西洋の両岸で活動したピューリタンの歴史に関する資料をある程度集めることができた。『七破風の屋敷』についての発表や論文を準備する過程では、作品に登場するピューリタンの一族の描写を読み直しながら、作品を詳細に分析するとともに、17世紀アメリカのピューリタンの家族観について調査することができた。「クエーカーとホーソーン」についてのキーワード解説を執筆した際には、クエーカーたちのヨーロッパからアメリカへの移動の歴史やホーソーンの先祖とクエーカーの関係、ホーソーンの作品のいくつかに登場するクエーカーの描写についてまとめることができた。また、書評を執筆した入子文子先生の『複眼のホーソーン』は、ホーソーンのヨーロッパの系譜に関する長年にわたる大量の文献調査の結果が集約されたすぐれた書であり、書評執筆の過程で得た情報や本書で学んだホーソーン文学の研究方法は、本研究においてもおおいに役立つものだった。このように2022年度には、本研究で分析の対象にしたいと考えていたホーソーン作品のいくつかについて研究を進めたり、17世紀のピューリタンの活動についてある程度の資料を集めることはできたが、ホーソーンのピューリタンの描写を研究するうえで重要な作品はまだあるし、最近の歴史や宗教史の分野におけるピューリタニズム研究に関するリサーチが不十分なので、2023年度以降は特にそのような方向に力を入れて、研究を進めていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度にはまず、歴史や宗教史の分野で近年出版されたピューリタニズム関連の書籍を読み、最新の研究の動向について確認したい。特に、17世紀の大西洋の両岸に存在したピューリタン聖職者や移民のネットワークに関する研究、英米の新興貿易商人の活動、商人とピューリタンの関わり、アメリカ植民地の入植事業を進めたマサチューセッツ湾会社に関する資料を読みたいと思っている。そのうえで、ピューリタン植民地を舞台にした短編小説や『緋文字』に登場するピューリタン社会の政治的・宗教的指導者、ピューリタン社会の中で生きる登場人物を分析したい。また近年、David Hallの A Reforming People: Puritanism and the Transformation of Public Life in New England (2011)など、17世紀アメリカ植民地の一般市民の価値観や生活の実態を解明しようとする研究書がある。このようなピューリタン市民の声を拾い上げようとする近年の研究を参考にしながら、作品中で名前を与えられていない、ピューリタンの一般市民の描写も検討したいと考えている。2024年3月の日本ナサニエル・ホーソーン協会東京支部会で口頭発表をする予定があるので、そこで2023年度の研究成果を発表したいと思っている。また、最新の研究動向を知り、ほかの研究者と情報の交換をするため、6月の日本ナサニエル・ホーソーン協会全国大会、8月のエコクリティシズム研究学会、10月の日本アメリカ文学会大会などに出席をする予定である。
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Causes of Carryover |
2022年度には、東京以外の場所で開催される学会に数回出席する予定にしていたが、その多くがオンラインでの開催となったため、出張のための旅費が残ることになった。可能であれば、2024年度にアメリカへ資料収集のための出張をしたいので、2022年度の残額はアメリカ出張で使いたいと考えている。
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